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髙階理事長エッセイ「One thing at a time」【第4回】

 

 

【第4回】

 

《な》 自主、自戒のことば~その(6)
  「 謙虚であれ( Be humble) 」

 人は誰でも物事に成功すれば、他人は称賛します。何回も称賛の言葉を耳にするうちに、自分の態度が尊大になっているのではないでしょうか?多くの仕事は自分一人ではできないことが多いのです。チームを組んで仕事を完成させた時の達成感を味わいます。チームのサポートがあったからこそ、そのプロジェクトを完成させられたのです。

 これは、あらゆる分野に共通したことだと言えます。例を挙げると宇宙開発の様な巨大科学プロジェクトは、リーダーのもと、各分野の担当者が周到な準備と綿密な作業を行い、全ての分野が一所懸命になってそのプロジェクトを完成させるのです。チームの中に一人でも尊大な気持ちを持ち、人として謙虚さを失なえば、プロジェクトは大幅に遅れるか、あるいは失敗に終わってしまいます。

 芸術家の場合、作品に対して周到な準備を行い、自らの心と身体を磨き、作品に愛情と情熱を注ぎ、時空を超えて創り上げて行くという孤独な戦いです。その作品が人の心を打ち芸術作品の評価を高めます。美術館に展示された作品を見た時、万人が感銘を受けることでしょう。彼等は我々の日常生活と次元の異なる空間で仕事をしているからです。

 しかし、あらゆる分野で仕事をする人、とくに医療者は何時も謙虚な気持ちを持って人に接することで、患者からの信頼を得、その人を成功へと導く唯一つのカギだと思います。

 

《ら》 自主、自戒のことば~その(7)
  「 協調性をもて (Be cooperative) 」

 人が生きていく上で一番大切なことは、相手の人の話を聴き、大切にすることです。そうすることで相手も自分の話を聴いてくれたと思い、信頼の気持ちが生まれます。協調性を持つことが大切で、自分勝手な行動を取り、我を通す人は社会人としては、失格です。

 「和を以って貴しとなす」は聖徳太子が1400年以上前に制定された「十七条の憲法」の第一条に示されたことばですが、現代を生きる私たちにとっても教訓にするべき内容で、その価値は色あせていません。人間関係がうまくいかないことがあるかも知れないが、身分の上下に関わらず皆で議論をすれば、自然と物事はうまく進んでいくと「和」の大切さを説いています。人と対等に話すことの大切さは医師と患者の関係にも言えます。わたしが提唱する「医患共尊」は医師も患者も共に尊敬の気持ちを持って信頼に足る医療を目ざすというものです。

 今の政治家の方々こそ、聖徳太子の憲法をもう一度読み、自らの行いを振り返り、正すべきだと思います。そして人の話を良く聴き、相手の立場を理解してこそ、協調性が生まれてくるのです。

 決して難しいことではありません。世界的に紛争が絶えないのは、お互いの立場を理解しようとしないからです。ドイツの哲学者カントの純粋理性批判の中で「自分は自分であることで、自分を認め、他人は他人であることで、他人を認める」という言葉は、現在も生きています。

 毎日、新聞やテレビを見ると、正直でない人が何と多いかに驚かされます。とくに政治家に見られる現象です。自己中心的で品格のない人々です。これは日本に限らず世界中の政治家に言えることかも知れません。 

 随分前、作家の遠藤周作氏が北杜夫氏との対談で書かれた「世間の常識は永田町の非常識、永田町の常識は世間の非常識」という件を思いだしました。その通りだと思いました。わたしは決して政治家になろうと考えたことはありません。品格のない人間になりたくないと思ったからです。

 

 最近、読んだ本で感銘を受けたのは、京セラの会長だった故稲盛和夫氏が書かれた本『稲盛和夫一日一言』(致知出版)です。京セラを立ち上げ、最高の企業経営者として、長年に亘って京セラを牽引して来られた稲盛氏が、経営トップは何時も率先して努力し、真面目に部下と共に歩み、他利の心をもって接することが大切だと書いています。

 自分の権利や、名声のために生きている人は、短期間的には成功するかも知れませんが、決して長続きはしません。学問の場合も同じです。研究や、論文を書くにも、盗用やデータの改ざんなどをする人は、時間が経過すれば、必ず指摘され、今までの名声も地位さえも失うことになります。企業の場合でも同じことが言えます。正直でない人は知的財産所有権、あるいは特許権の問題で糾弾されることでしょう。人は何時も、真面目に生き人を感化させる大きな力を持って頂きたいと思います。

 

次回に続く

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