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『わたしのパスかる!』髙階理事長の自叙伝 最終回(連載第26回)

2022年2月から連載を開始いたしましたジェックス理事長髙階經和先生によります『私のパスかる!』が今回をもって、完結いたします!
最終回までご愛読いただき、ありがとうございました。

最初から読み返してみよう、気になった回をもう一度読み直してみよう、と思われる方は
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    『わたしのパスかる!』 最終回(連載第26回)

ーわたしの歩いてきた道ー

ジェックス理事長 髙階 經和

  

第4章:-1995年~2022年-

24.iPax の登場

 2017年の秋、ジェックス研修センターでわたしは一人のスマートな紳士に出会った。彼がテレメディカ社長の藤木清志氏であり、九州大学名誉教授の荒川規矩男先生の紹介で来られたことがはじまりである。

 藤木氏がわたしに提示したのは、オンラインで送られてくる心音・心雑音を独自に開発された聴診訓練用スピーカー「聴くゾウ」が一体になった教育システムは、既に日本の特許をしており「聴くゾウ」の円形シリコン振動板上に聴診器を置けば、何時どこでも聴診ができ、またスマートホンやタブレットに聴診アプリを入力すれば聴診の自己研修が出きる教育アプリであり、素晴らしいと思った。それに加えて藤木氏が稀に見る誠実で勉強熱心な方であることにわたしは共感を覚えた。更に何よりもの強みは、テレメディカ社を立ちあげる前に現役の薬剤師であり大手製薬会社の医薬情報課長を務めておられたこと、また東京青山大学大学院でMBAの資格を取得した稀に見るベンチャー企業の担い手であった。

 それ以来、わたしはアドバイザーの1人として「聴くゾウ」の音質や各心疾患の心音・心雑音を提供していくことになった。或る日、わたしは「聴くゾウ」の振動板に手掌を置くと、心音や心雑音の振動が伝わってくることに気付いた。紛れもなく「聴くゾウ」は「触診器」でもあったのだ。そして藤木氏は音源から分岐ケーブルを使って2台の「聴くゾウ」を使えば見事に聴診しながら脈拍を触れることを実証したのだ。


 藤木氏が「聴くゾウ」利用していた或る大学医学部循環器内科の医師が「各聴診部位で心音・心雑音が変わるようなアプリは出来ないか?」という質問を受けた。わたしその話を聞き直ぐに長男の「経幸」が学生時代に描いてくれた男性の胸部イラストを思い出した。「藤木さん、実はわたしの長男が以前に描いてくれた男性の胸部イラストがあるのですが、如何でしょう?」

心臓聴診研修用「聴くゾウ」は触診器でもある。
(藤木氏と「聴くゾウ」)

図 各聴診部位の心音図を示す。

 「それは是非拝見したいと思います」と、藤木氏は直ぐに対応した。「聴くゾウ」はオンラインで送られてくる心音・心雑音を二次元的に「聴くゾウ」に再現できる聴診アプリであったが、わたしたちが開発したのはタブレット端末に心音・心雑音を入力しておけば、オフラインとして音源を何処にでも持ち運びできる。­胸部イラスト上で典型的な聴診部位「大動脈弁部位」「肺動脈弁部位」「三尖弁部位」と「僧帽弁部位」に聴診器をあてることで、聴診ができる三次元的な教育システムが出来たのである。わたしはこの聴診自己研修アプリに「オースカレイド」(Ausculaide)という名前を付けた。約2年間循環器専門ナース研修でこれを使って「オースカレイド」から心音・心雑音を出力し、分岐ケーブルから「聴くゾウ」に接続すると10名が同時に聴診できる方法を研修に取り入れた。

 コロナ禍が爆発的な広がりを見せる前、2019年暮れに「アイパックス」(視診・触診・聴診訓練法)(iPax:Ispection,Palpation, Auscultaion exam.)によるオンライン医学教育の基礎概念は既に出来上がっていた。わたしを始め多くのメディカル・アドバイザーの方々が協力した結果、藤木氏は2021年1月17日に米国特許を取得した。「アイパックス」による研修方法は、今や国内外でも医学教育に取り入れられることになった。わたしたちの共同研究の1つとしてそして『新しい可伸展型ダイアフラム聴診器と聴診技術向上のための自己評価法』と題する論文をOnline Journal of JECCS ,2020 Vol.1. No.1 1~9.に発表した。(ジェクスのホームページhttps://www.jeccs.org) わたし達が取り組んできた「アイパックス」という世界初のオンライン教育法は、わたしが目指してきた臨床心臓病学の集大成であると信じている。2021年、前出の藤木氏と共にオンライン医学教育の一環として取り組んできた聴診訓練アプリ「アイパックス」を世に送りだすことができた。これが第-10の「パスかる」である。(10)

 

あとがき

 振り返ってみると、わたしが医師になってから、やがて68年が経つ。アメリカのカンサス大学医学部の正面玄関には「医学は4年にあらず、40年である」(“Medicine is not four years, but forty years”)という言葉が刻まれている。医学部教育の4年間では、厖大な医学的知識の全てを学べるものではない。わたしは今日でも、未だに自らの道を極めたとは思っていない。臨床医学とは、まさに人間を対象とした学問であり刻々変わる人の生命に対処する重大な責任を負った仕事なのだ。

 わたしの恩師であるドクター・ジェームスとドクター・バーチという二人の偉大な医師が、わたしの半生に大きな導きを与えてくれた。そして20歳の後半に自分の進むべき道を選んだのが、臨床心臓病学であった。また人生の先達であるあらゆる職業の方々から、貴重なアドバイスを率直に聞き、気力と体力の許す限り一生現役として働きたいと思っている。

 アメリカ南部の詩人サミュエル・ウルマンが『青春の詩』の中で「青春とは人生のある期間を言うのではなく、心の様相を言う。20歳の青年にも80歳の老人もおれば、80歳の老人に20歳の青年がいる。人は年とともに皮膚に皺もよるが、人が希望を失い、心が萎んだとき、はじめて老いる」という有名な一節があるが、わたしはまさにその通りだと思っている。ウルマンの言うように、人は一生現役として努力を惜しまず、ひたすらに情熱を持ち、自らの内的充実を図り、活動することが大切だ。

文中ではお世話になった方々には実名で登場して頂き、原稿執筆にご協力を頂いた方々、特に「イチロー君」の開発に至る様々な過程で、ご協力頂いた方々との交流を描いた。またインターメディカ社の小沢ひとみさんには『やって見ようよ!心電図』が二年間連続でベストセラーとなり、その編集に献身的な努力を払って頂き心から感謝の念を表したい。わたしが少年時代から持ち続けた発明家になろうとした夢のかけらが実ったことは大きな喜びである。

人には、それぞれ自らの歴史がある。喜怒哀楽を味わって、初めて人は人生の意味を理解し成長する。そして「自ら歩んできた道」を振り返ってみた。人生には「三つのM」が必要であると思う。それは(1)使命感(Mission) (2)師匠を持つこと(Mentor)、(3)時に反省する(Mirror)時が必要である。自分が正しいと思っていたことが時には脇道に逸れていることがあり軌道修正をする必要がある。

わたしが社会人の一人として絶えず抱いている理念とは、

  1.活動的であれ (be active)

  2.忍耐強くあれ (be patient)

  3.思慮深くあれ (be thoughtful)

  4.正直であれ  (be honest)

  5.謙虚であれ  (be humble)

  6.協調性を持て (be cooperative)

  7.時間を守れ  (be punctual)

  8.創造性を持て (be creative)

というものだ。人はともすれば安易に流され勝ちである。しかし、何時も自らを律することで、自らの道を見失う事はない。今日まで、わたし達子供を立派に育ててくれた両親には、感謝の気持で一杯である。今まで出会った内外の素晴らしい人達から人生は如何にあるべきかを教わった。それがわたしの知的財産となった。

ここに紹介した幾つかのエピソードは、戦争の時代を生き抜いた人でなければ知りえない話だったと思う。と同時に戦争の事を全く知らない世代の人々に、自らの体験を伝えなければならない責任をこの小著に込めた。読者の方がたのお役に立てたとすれば望外の喜びである。

わたしはいままでに幾つかの予期しない困難を味わった。人生とは皮肉なものだ。わたしは2004年4月に前立腺ガン(13か所の骨転移)に罹患した。三年間の抗がん薬治療と注射で、PSAの値も正常となり、集中放射線治療を受けた結果、治癒したものと考えられたが、2019年1月に再発性前立腺ガンを発症したため治療中である。2021年5月、自宅で転倒し腰椎骨折を起こした。が、自らの免疫力を高め、今後も後輩のため臨床心臓病教育を続けようとおもった。生理的年齢は既に満92歳と半ばをすぎ体力的には十年前の自分ではない。だが気力と体力の許す限り何時までも様々な新しいことに挑戦しようと考えている。1958年に結婚して以来、今日までわたしと共に助け合い、頑張ってきた妻の「幸子」そして、長男の「経幸」次男の「經啓」とその家族に心から感謝したい。今日までわたしを国内外の導いて頂いたすべての人に感謝の意を表したい。

    【 完 】                 

参考文献;

1. Takashina T, Lazzara,R, Cronvich J, and Burch GE: Studies of rates of transfer of D2O, H3, Cl36, Na22and Mg28 across the isolated pericardium of dogs. J Lab & Clin Med,1962,60: 662-668.

2. Takashina, T. and Yorifuji, S; Palmar Dermatoglyphics in Heart Disease, JAMA,  1966:197,  689-692.

3. Takashina, T., Yamane, K. and Sugimoto, M.: Electrocardiographic Findings in 2, 391 Cardiac and Non-Cardiac Patients in Japan.  Japanese Circulation Journal 1966; 30: 869-873.

4. 髙階經和、依藤進:心臓病へのアプローチ、」医学書院、1969.

5. 髙階經和:心電図を学ぶ人のために、医学書院、1980.

6. Takashina T, Masuzawa T, Fukui Y: A new cardiac auscultation simulator. Clin Cardiol. 13:,1990. 869~872.

7. 髙階經和:スピリット、平成の出島ものがたり,集英社、1990

8. 髙階經和:やって見ようよ!心電図、インターメディカ,2002.

9. Takashina T, Shimizu M, Katayama H: A new cardiology patient simulator. CARDIOLOGY, 88; 408-413.

10.Takashina, T.,  Shimizu, M.,  Muratake, T., Mayuzumi, S: New Stethoscope With Extensible Diphragm, CIRCULATION J. 2016; 80:2047-2049.

11.髙階經和、村竹虎和、藤木清志:『新しい可伸展型ダイアフラム聴診器』 聴診技術向上のための自己評価法』Online Journal of JECCS ,2020 Vol.1. No.1 1~9.

 

【著者紹介】

髙階 經和(たかしな・つねかず)昭和4年(1929年)12月4日 大阪生まれ

職  業:医師(循環器専門医)、アメリカ心臓病学会会員(FACC)、アメリカ心臓協会会員(FAHA)

略  歴:神戸医科大学(現・神戸大学医学部)卒業後、米国チュレーン内科に留学、臨床心臓病学専攻。淀川キリスト教病院循環器科医長、神戸大学医学部講師、大阪大学歯学部講師、チュレーン大学内科客員教授、マイアミ大学医学部客員教授、名古屋大学保健学科講師、アリゾナ大学医学部客員教授、近畿大学医学部客員教授、公益社団法人臨床心臓病学教育研究会理事長、専門は、心臓病、循環器内科、日本循環器学会専門医、日本内科学会認定専門医、米国心臓病学会名誉会員、米国心臓協会名誉会員、日本エッセイストクラブ会員。アメリカ心臓病学会会員(FACC)、アメリカ心臓協会会員(FAHA)、特許取得:US 6,408,200 B1(June 18,2002)

授  賞:日本心臓病学会教育貢献賞(2012年)

     日本医学教育学会・日野原賞(2013年)

 

 

 

 

 

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