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『わたしのパスかる!』髙階理事長の自叙伝(連載第19回)

ジェックスの設立者で理事長の髙階經和先生が、お生まれになった1929年から現在進行中の研究成果まで、90年を超える人生と研究をみずからまとめておられます。

内容はもちろん、読み物としても大変興味深い「自叙伝」となっています。ぜひお楽しみください!

(連載内容の目次はこちら)

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    『わたしのパスかる!(連載第19回)

ーわたしの歩いてきた道ー

ジェックス理事長 髙階 經和

  

第4章:-1995年~2022年-

8.予期せぬ前立腺ガン

 2004年の健康診断で前立腺ガン診断の検査、PSA値(Prostate Specific Activity)が84を超え、全身13カ所に骨転移を伴う前立腺がんが発見された。「さて、どうしたものか?」と戸惑ったが「ガンに負けてたまるものか」という思いと「患者さんのためにわたしが健康でいなければ、どうするのだ」と考え、ニューオーリンズ生まれの長男に電話を掛けた。彼は当時、東京の江戸川病院放射線で専門医をしていたが、すぐに彼の病院でも検査をしたいと連絡してきたので、わたしは上京した。彼も精密な検査を行った結果をみて驚き、わたしの予後は3年半だと思った。いままで「実年期」だと思って働きつづけてきたわたしは、その時「老年期」とはこんな状態を指すのかと思わざるを得なかった。

 大阪に帰ったわたしは、淀川キリスト教病院泌尿器科で抗がん薬と3カ月に1回の筋肉注射を続け、更に自己免疫力を高めるため、毎日一時間散歩を行った。その結果、3年後には、PSA値が2.0以下に下がった。骨転移病巣も薄れてきたので長男と相談した結果、当時では数少ない放射線集中治療装置を導入されている京都宇治市にある「武田総合病院」放射線科部長の岡部春海先生を紹介してくれた。毎日、午前中の診療を終えるとすぐに京都の武田病院に向かった。京都へ向かう電車の中で何度も疲労感に襲われ、立っているのがヤットのこともあったが乗り切った。そして2カ月に及ぶ放射線治療を受け、完全に骨転移病巣も消えたと診断された。その間、わたしは毎日治療を受けるために京都に出掛けていることを患者さんの誰にも知らせなかった。

 それから14年間わたしはいままで以上に臨床・教育・研究に打ち込んだ。その間、自分で自覚しなかったが、前立腺ガンが徐々に再燃してきていたのである。2018年12月1日、台北にある大学病院へ講演に行ったが、その翌日には関西国際空港に帰ってくるという強行なスケジュールを終わった後、急に体調を崩した。前立腺がんの再燃だった。

 2020年3月クリニックを閉鎖するに至るまで、日常診療を続け、開業以来、半世紀以上に亘って、わたしは心臓病専門医として臨床・教育・研究の三脚の上に立って働いてきた。前出の「みんなでパスかる!」を観たことで、わたしが医師として、また社会人の一人として経験したことを、満92歳の節目で纏めて見てもよいと考えた。

 

9.心電図道場

 2005年9月 東京。 医学書院主催の「心電図道場」が、東京九段の青年会館で行われた。わたしが講師として2日に亘る講義であった。

 初日の11日は76名、2日目の12日は67名の出席者があった。2回目の講義では如何に心電図への興味を持たせるかに工夫を凝らした。その甲斐あって参加者から素晴らしい反応が得られた。

 「今まで苦手だと思っていた心電図が、より身近なものになったと思った」

 「髙階先生の講義は何度でも聞きたいと思いました」

 「髙階先生の若さはどこから来るのでしょうか。本当にわたしたちを教えようという熱意が伝わってきました」

 「心臓が立体であるという考え方をいままでしたことがなかったのですが、今日の講義ではっきり分かりました」

などなど、そして九州大学第二内科の助教授の先生が息子さんと一緒に来られていたが、わたしの講義について「圧巻の一語に尽きる素晴らしい講義でした」とのコメントを寄せられた。恐らく教育者として、如何に学生に教えるかについて多くのヒントを見出されたことであったと思う。

 このセミナーのオープニングは、まず世界的テノール歌手であるホセ・カレーラスの独唱CDをバックにはじまった。これは嘗てわたしがハーヴェイ教授から学んだ手法である。「第一部・心電図の理解に臨床で必要な解剖生理」を2時間の講義をしたあと、昼食をはさみ「第二部・正常心電図の読み方」,「第三部・実際の症例から心電図を読んでみましょう」と続けた。

  第一部では,心臓の重さや全血液量など,臨床家が意外と忘れている基礎的事項を押さえたあと,心電図を読むため是非とも記憶しておきたい「13のチェック・ポイント」―(1)較正曲線、(2)心拍数、(3) リズム、 (4) PR間隔、(5) P波、(6) QRS群、(7 QT間隔、(8)平均電気軸、(9) 胸部誘導におけるR波の増高、 (10)異常Q波、(11) ST部分、(12) T波、(13) U波について解説を行った。

 わたしはここで,心臓の模型や,手作りのマグネット付心電図波形、自作の短歌,ジョークなどを交えてわかりやすく解説した。それは医学教育とはショーであるという考えが前面に出た講演であり、わたしがあたかもマジシャンのようであったと医学書院の編集者がコメントしてくれた。これはわたしに取って大きな喜びであった。

 第二部では,あらかじめ配布された六つの典型例の12誘導心電図を、第一部で紹介した13のチェック・ポイントに従ってゆっくり読んでいった。そして第三部ではわたしが書いた『心電図道場』に掲載されている異常心電図の各事例に挑戦した。初心者から復習目的の人まで異なるレベルの聴衆がそれぞれに満足できる段階的な組み立てとした。こうして2日に亘った心電図道場の幕が降りたのである。

 

10.循環器専門ナース研修プログラム

 2000年7月、かねてより当社団法人理事で、元オクラホマ大学医学部教授の中野次郎先生(故人)が、循環器専門ナース養成の必要性を唱えていたが、中野先生のプランニングにより、7月末から9月まで、隔週で丸2ヶ月にわたって土日を使い、研修を始める事になった。全国に公募をしたところ、北は北海道、南は沖縄に至るまで、実に日本列島のあらゆる医療施設から研修参加の申し込みがあった。

 講義の内容は、臨床に必要な解剖生理から始まり、臨床薬理学、心電図(わたしが基礎に関する講義を行った)が、胸部レントゲンの読み方、心エコー図の解説、心臓カテーテル検査、心臓核医学検査、心臓血管撮影、心臓外科手術、麻酔と術後管理、緊急外来での対応や、心肺蘇生術の研修、身体所見の診かたを「イチロー君」で学ぶなど、各講師の方々が、ナースの研修のため献身的な努力をして頂き成功裡に終わった。こうして今日に至るまで約20年間に1,200名を越す循環器専門ナースが育っていった。今後もこのプログラムは継続して実行される予定である。

 

 

 ・・・次回に続く

※「わたしのパスかる」へのご感想をぜひお寄せください。 office@jeccs.org

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