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症例95 歩行困難、構語障害で搬入された。80歳男性

男性/80歳

問題

【主訴】歩行障害、構語障害
【現病歴】以前から足のふらつきがあったが、自力で歩行できていた。
受診日の朝から立ち上がれなくなり、ろれつがまわらない話し方も認められるようになり家人とともに来院された。
生活は次男と二人暮らし。
【既往歴】高血圧症、Ⅱ型糖尿病、糖尿病性腎症、脂質異常症(内服加療中)
【受診時現症】

脈拍 36 回/分整 血圧 140 / 60 mmHg 呼吸数 16 回/分 SpO2 98 %(room air) 末梢、体幹の皮膚の冷感(+)。

(出題者)公益財団法人田附興風会医学研究所
 北野病院心臓センター 循環器内科主任部長 猪子森明

 

【図1 3日前の心電図】

図1 3日前の心電図

【図2 受診時の心電図】

図2 受診時の心電図

解答と解説

低体温症に伴う、洞性徐脈、PQ、QT延長、J波(Osborn波;図3の矢印)出現
受診時には体温は計測不能であった。電気毛布で復温を開始したところ翌日には体表温が36度台に上昇し、脈拍は50回/分まで改善して会話や歩行の能力も改善した。
回復後の心電図(図4)では洞調律の心拍数は増加し、Osborn波が消失するとともに、PQ、QT時間も回復していた。
低体温症では伝導遅延によるPQ、QRS、QT時間、RR時間の延長とともに、QRSとSTの接合部であるJ点が上昇し、J波(Osborn波)が出現する。
J波は心室筋の心内膜側と心外膜側の間の早期再分極過程の差によって生じるとされ、体温の低下とともにJ波は増高(再分極過程の差が増大)して心室細動に移行しやすくなる。
J波の発現は、低体温症以外のブルガダ症候群、特発性心室細動、抗不整脈薬投与、心筋虚血においても心室細動の発症に関連するため、「J波症候群」として注目されている。
J波は心疾患のない健常例においても1%から13%認められる所見で、J波形を含む心電図所見や背景因子を用いて心臓突然死リスクの層別化が可能か否か、検討が進められているところである。
 

【図3  受診時の心電図(図2と同じもの 矢印はJ波を示す)】

受診時の心電図(図2と同じもの 矢印はJ波を示す)

 

【図4 入院翌日の心電図 】

図4 入院翌日の心電図

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