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心電図データベース

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症例93 胸部圧迫感で入院し、その後に意識消失をきたした25歳男性

男性/25歳

問題

主訴:失神
現病歴:生来健康。
数日前より感冒症状とともに胸部圧迫感が出現。
近医受診し心電図でST上昇を認め、冠動脈造影にて異常所見なく急性心膜炎と診断され入院した。
入院17日後に意識消失を来し、心電図でwide QRS tachycardiaを認めた。
このため体外式直流通電施行され、洞調律へ復帰した。
精査加療目的にて当院へ転院となった。
身体所見:意識レベル 清明。体温37.5℃、血圧87-58mmHg、脈拍50bpm。
心エコー所見:全周性に左室壁運動は低下しており、左室駆出率(EF)は33%であった。

【心電図①】
前医での失神時の心電図を示す。
心拍数220bpmのwide QRS tachycardiaを認め、QRS幅は240msと拡大し、下方軸、右脚ブロック波形を呈している。
前述の如く血行動態は破綻し、失神した。

(出題者)大阪府立済生会富田林病院 院長 宮崎俊一

心電図1

【心電図②】
体外式直流通電施行後の心電図である。
洞調律に復帰しているが、胸部誘導V1-2で異常Q波とPoor Rを認め、V1-5誘導ではST上昇を認める。
四肢誘導ではreciprocalなST低下を認めない。

心電図2

解答と解説

【解説】 診断は急性心膜・心筋炎に合併した持続性心室頻拍である。
心電図①はwide QRS tachycardiaを呈しており、
まずは頻拍の原因が心室性か上室性かの鑑別が必要になるところであるが、頻拍とともに血行動態が破綻している。
このため原因の如何に関わらず、ただちに直流通電による頻拍の停止が必要である。
心膜・心筋炎は多彩な不整脈を発生するが、本頻拍においてはQRSの立ち上がりはなだらか(slur)であり、QRSは200 msを超えて非常に広く、V4-6誘導でQSパターンを呈している。
これは上室性頻拍の変行伝導よりも心室頻拍が強く疑われる所見である(WPW症候群に合併した心房細動も疑われるが、洞調律中にΔ波がないので否定的)。
QRS波形は常に同一ではなく、一心拍ごとに変容を認める。
この頻拍は炎症心筋細胞の異常興奮によるものと推察されるが、リエントリーによるものか、自動能によるものかは不明である。
しかし変容するQRS波形からは安定しない心筋伝導興奮が示唆され、容易に心室細動への悪化も予想されるため、CCUでの集中加療が必要である。

 

【心電図①】

心電図1

心電図②は洞調律復帰後のものであるが、I, II, aVFにわずかな、V1-5に顕著なST上昇(V2で最大5mm)を認める。
ST上昇のパターンは下に凸であり、典型的な心膜炎の所見を呈している。
V1はほぼQS、V2ではPoor Rであり、心筋炎による心筋傷害を示す所見かもしれない。
急性心筋梗塞との鑑別が必要であるが、心膜炎によるST上昇の特徴として広範な誘導に分布すること、reciprocalなST低下がないことが挙げられる。
 

【心電図②】

心電図2

その後の経過:本症例ではアミオダロンとβブロッカーの投与により、心室頻拍は抑制された。
心機能低下は認めたものの洞調律復帰後のバイタルは安定し、補助循環は不要であった。
その後ARBを追加し経過を観察しているが、発症から1ヵ月後の時点で低心機能は改善せず、造影MRIでは左室にびまん性のガドリニウム遅延造影像を認めた。
非虚血性心筋症での低心機能と左室線維化は心臓突然死の危険因子であるとされており、今後の経過によっては植え込み型除細動器での突然死予防も考慮される。

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