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心電図データベース

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症例87 発熱と下痢で入院中に突然に発症した呼吸困難

女性/85歳

問題

主訴:発熱、下痢、食欲低下
既往:発作性心房細動、上室性期外収縮、脂質異常症
内服薬:プロパフェノン、ジゴキシン、アトルバスタチン、ファモチジン、アルファカルシドール
現病歴:1週間前から上気道炎症状、3日前から嘔気があり、入院日朝から頻回の下痢が出現し救急外来を受診した。
血圧123/77mmHg、脈拍94/分、呼吸数17/分、SpO2 93%(室内気)、体温37.7℃、
検査結果ではWBC3400/μL, Neu70%, Hb12.6g/dl, Plt11万/μL, ALT16U/L, LDH266U/L, ALP167U/L, T-bil0.8mg/dl, CK219U/L,TP6.1g/dl, BS143mg/dl, BUN12.5mg/dl, Cr0.47mg/dl, Na127mEq/L, K2.8 mEq/L, Cl135 mEq/L, CRP2.4mg/dl, ジゴキシン0.8ng/ml。
胸部X線では肺野に浸潤影を認めないが、胸部CTでは両肺野に気管支炎を示唆する所見を認めたため、急性気管支炎と急性下痢症と診断され入院した。
入院時の心電図所見を図1に示す。
 
翌日16:48に呼吸困難感が出現、心拍数 130/分、血圧 203/101mmHg、呼吸数30/分 SpO2 90%(室内気)、表情は苦悶様で、聴診で両側肺野で喘鳴音を聴取した。
このとき、ECG変化(図2)を認め、心エコーでは心尖部を中心に左室中部にかけ壁運動低下を認めた。
緊急冠動脈造影を実施したが冠動脈に狭窄病変は認めなかった。

(出題者)公益財団法人田附興風会医学研究所
 北野病院心臓センター 循環器内科主任部長 猪子森明

 

図1 入院時ECG

85歳女性の図1入院時ECG

図2 入院翌日呼吸困難自覚時ECG

85歳女性の図2入院翌日呼吸困難自覚時ECG

解答と解説

【回答】 たこつぼ型心筋症
本例は入院中に発症し、発症後きわめて早期から経過を観察することができたたこつぼ型心筋症例である。
入院の原因となった気管支炎と下痢といった身体的ストレスはあったものの、直接の誘因は明確ではなかった。
たこつぼ型心筋症による心機能低下に血圧の上昇が加わって急性左心不全を呈したが、利尿剤、硝酸剤による心不全治療にて改善、壁運動も約4週間の経過で正常化した。
経過中トロポニンIは2.4ng/mlまで増加したが、CKは300(MB 4)U/Lとほぼ変化を認めなかった。
心電図では翌日には大きな陰性Tが認められた。(図3)
たこつぼ型心筋症は身体的、精神的ストレスを契機として発症し、多くは一ヶ月以内の経過で改善する比較的予後良好な疾患とされる。
発症時の症状、心電図変化は前壁急性心筋梗塞に類似し鑑別が困難である。
急性期の心電図上の鑑別点として小菅らは、たこつぼ心筋症ではaVR誘導でST低下を認めることと、V1誘導でST上昇を認めないこと、心電図上この2つの所見が認められる場合、たこつぼ心筋症の感度は91%、特異度は96%であることを報告している。(Kosuge M,et al. JACC.2010;55:2514)
本例ではV1でのST上昇を認めない点では一上記の所見を満たしているが、aVRのST低下は振幅が小さいこともあり認められなかった。
心電図経過に関しては経過中Q波は出現せず、急性期にST上昇を認めた後約3日で陰性Tが深くなり、数日後には一度浅くなった後、再度深くなって2週間後に最も深くなる。
QT時間はT波が深くなるとともに延長し、浅くなるときには短縮すると報告されている。(Kurisu S, et al. J Cardiol. 2012;60:429)
このようなT波の変化は再灌流後の急性心筋梗塞に類似している。

 

図3 発症翌日のECG

図3 発症翌日のECG

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