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症例76 主訴:労作時息切れ – 洞調律中に3種類の異なるQRS波形を認めた1症例 –

女性 70代

問題

201×年10月、白内障手術前検査で行った心電図検査で、洞調律中にQRS波形が変化する所見(心電図①)を認めたため、当科に紹介となった。
症状を認めないため経過観察されていたところ、翌年1月初旬、軽労作にて息切れが出現したため再度来院した。失神はない。
12誘導心電図にて徐脈(心電図②)を認めたため緊急入院となった。理学所見上、脈拍:46回/分、血圧:214/67mmHg、Ⅰ音 のcannon sound(大砲音)を聴取する。
心エコーにて左室拡張末期径40mm、左室駆出率70%、心室中隔基部を含め、心室壁の壁運動異常や菲薄化を認めない。冠動脈CTにて冠動脈に有意狭窄なし。

(出題者)

近畿大学医学部附属病院循環器内科

栗田隆志、宮崎俊一

 

 

心電図 心電図

解答と解説

心電図の経過
 
心電図①
当科を紹介された際の心電図である。洞調律中に連続して変化する3種類のQRS波形を認める。QRS幅は160ms→100ms→130msへと変化している。
V1の心電図変化に注目すると、QRS幅の変化とともに完全左脚ブロック(QSパターン)→正常QRS(rSパターン)→完全右脚ブロック(rSR’パターン)へと変化している。すなわち、2拍の正常QRSを挟んで、交代性脚ブロックが生じたものと診断される。脚ブロック時のPR時間は正常時のそれに比して若干延長(160ms→200ms)している。このような場合、左脚と右脚の伝導が双方とも高度に傷害されていることが示唆され、近い将来に高い確率でより高度な房室ブロックへ発展することを察知せねばならない。この時点で詳細な検査(ホルター心電図記録、運動負荷試験)などを行うか、入院での管理が検討されるべきである。
 
心電図②
労作時の息切れを自覚して来院した際の心電図である。心拍数43/分の徐脈でRR間隔は整である。V1でPとQRSの位置関係に注目するとPR間隔が徐々に短縮していることが分かる。このようにRR間隔が一定の徐脈の場合、PR時間が常に変動する場合は完全房室ブロックをまず疑うべきである。この心電図ではRR間に観察されるPP間隔をプロットしてRR間隔と比較すると、これらには関連性がないことが分かり、完全房室ブロックの診断が明らかとなる。この場合、心房レートが心室レートより速いことが重要である。
 
まとめ
交代性脚ブロックから完全房室ブロックへと進展した症例を経験した。房室ブロックの原因としてサルコイドーシスなどの心筋炎、冠動脈疾患を疑ったが、原因を明らかにすることはできなかった。過去に報告された病理学的検討では加齢による両脚近位部の線維化が最も頻度の高い原因とされている。本症例においてはその後、恒久的ペースメーカーを適応し、現在に至るまで問題なく経過している。心電図①は1枚の心電図で交代性脚ブロックが見事に表現された貴重なワンショットである。本現象はヒス-プルキンエシステムの伝導障害を示し、その70%は診断されて数週間内に高度房室ブロックに進行すると言われている。予後を推察する上で極めて重要な所見である。

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