ECG database

心電図データベース

心電図データベース

症例69 激しい動悸を主訴に来院

女性/78歳

問題

現病歴:
10年前ごろから近医で心電図異常を指摘されていたが、全く症状がないため、治療の必要性はないと言われていた。
特に誘因なく自宅で家事をしていた際に初めて激しい動悸を自覚した。目の前が暗くなり、立位の保持ができず、
座り込んで動けなくなった。同居している家人が救急車での搬送を依頼し、来院した。
 
現症:
来院時の血圧は84/56、脈拍は184/分で不整。意識レベルは正常であるが、顔面は苦悶様で蒼白。
理学所見上心不全などを認めない。酸素飽和度94%、胸部レントゲンに異常は認めない。
 
1. 来院時の心電図(図1)を示す。診断は何か?(胸部誘導の倍率は1/2)
2. 上記不整脈に対してピルジカイニド(サンリズム)を50mg静注したところ、図2の様に急に心電図が変化した。
  何が起こったのか? 下段拡大心電図、II誘導の▼に注目。(胸部誘導の倍率は1/2)

(出題者)近畿大学医学部循環器内科 栗田隆志 宮崎俊一

図1

図1 来院時心電図

図2

図2 ピルジニカイド投与後の心電図

解答と解説

解答1:
WPW症候群に合併した心房細動(図1)
 
解説:
 心電図ではwide QRS tachycardiaを呈し、RR間隔は大きくばらついている(最小と最大RR間隔はそれぞれ190msと360msであり、その差は170msに達する)。心室頻拍ではこれほどのRR間隔のバリエーションを認めることはまれである。Torsade de pointesのような多型性心室頻拍ではRR間隔の変動を認めるが、QRSの形態が刻一刻と変化し、本症例のようにある一定の形態(例えばV1では常に右脚ブロックパターン)は示さない。
 
 またQRSの初期成分に注目するとδ波様であり、スラーな立ち上がりをしていることから、上記診断がもっとも疑われる。RR間隔が比較的規則正しい場合は心室頻拍との鑑別に苦慮することもあるが、洞調律中の心電図があれば診断は容易である。心室細動へ移行する可能性があり、緊急性(重症度)は持続性心室頻拍と同様と考えて良い。 全く無症状のWPW症候群であっても、加齢とともに心房細動を発症する可能性は高くなるため、このような事態もありうる。来院時の治療としてはI群薬の静注が第一選択になる。ただし、血圧が低く、前ショック状態の場合、抗不整脈薬は慎重に投与し、バイタルが悪化した場合は投与を中止し、電気ショックによる除細動を考慮する。この際には適度な昇圧(α受容体刺激薬投与)と十分な鎮静(全身麻酔薬静注)を行い、QRSに同期させてショックを送出する。
 
解答2:
Ic群投与後に認められた細動の粗動化とδ波の消失(図2)
 
解説:
 WPW症候群に合併した心房細動と診断し、ピルジカイニドを投与したところ、心拍数の低下、RRの規則化、δ波の消失を認めた。心電図では明らかな心房波がRR間隔の中央に見えるが、よく観察するとQRSの直後にも同じ形をした心房波が観察され、2:1伝導する心房粗動であることが分かる(図下▼印)。Ic群の投与により、ランダムであった細動のリエントリーがひとつの安定した回路に集約されることがあり、細動の粗動化とよばれる現象である。Ic群は副伝導路の伝導性も抑制するため、δ波が消失し、QRSが狭小化している。この時点で心室細動へ発展するリスクはほぼ回避されたと考えて良い。
 
図3 粗動停止後、洞調律時の心電図
 A型のWPW症候群であり、QRS初期にδ波を認める(図下段、拡大心電図の→と□)。心房細動時は副伝導路を介して心室へ興奮が伝導するため、きわめて幅の広いQRSが形成される。しかし、洞調律では正常伝導路を介した伝導との融合波形となるためQRSが狭くなる。特にA型WPW症候群では副伝導路が洞結節から離れた左側に存在するため、正常伝導路を通る波形の要素が強くなり、本症例のようにδ波がわかりにくいことがある。
高齢ではあるが、カテーテルアブレーションによるWPW症候群の根治(副伝導路離断術)を考慮して良い。
 心房細動の根治術(肺静脈隔離術)を同時に行うかどうかは意見の分かれるところであるが、今回が心房細動の初回発作であり、今後の経過を観察して判断することとした。
 

図3 粗動停止後、洞調律時の心電図

図3 粗動停止後、洞調律時の心電図

一覧へ戻る
上にスクロール