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心電図データベース

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症例68 心房細動に対しピルジカイニドを開始した後に認めた心電図異常

男性/71歳

問題

嚥下困難により、当院外科にて胃瘻作成術施行後、発作性心房細動が出現したため、ピルジカイニド150mg/日を投与開始した。
投与2日後、洞調律に復した。その後ピルジカイニドを中止したが、中止2日後に心電図モニター上不整脈を認めた。
男性には外傷後水頭症によるVPシャントの既往歴がある。
 
1. 心電図診断は?
2. 不整脈診断は?

(出題者)公益財団法人田附興風会医学研究所
 北野病院心臓センター 循環器内科主任部長 猪子森明

 

心電図

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解答と解説

解説:
1. ピルジカイニド中毒によるQT延長
2. 心室頻拍(TdP; Torsades de Pointes; トルサード・(ド・)ポアント)
 
解説:
 TdPはQRSの軸と周期がねじれたように変化していく特殊な形の心室頻拍である。機序は未だ確定していないが、心室頻拍のリエントリー回路あるいは起源が連続して場所を変えていくということで、局所の心筋障害ではなく、心室全体におよぶ再分極異常(QT延長)に起因することが多い。頻度が多いものとしては、低カリウムを代表とする電解質異常、徐脈、薬物があげられる。本症例ではピルジカイニドの副作用によるQT延長が、頻脈性心房細動が停止して心拍数が低下したことにより顕在化し、心室性期外収縮によって一過性にRR間隔が延長したところに、さらに心室性期外収縮が、R on Tで出現する(short-long-short sequenceの形状となる)ことで、TdPが誘発されたと考えられた。治療としてはマグネシウム静注か、プロタノール(イソプレテレノール)点滴や、心房あるいは心室ペーシングによる心拍数増加があげられる。
 
 short-long-short sequence; 洞調律時に心室性期外収縮が短い(short)連結期で出現すると、次のR-R間隔は長く(long)なる。R-R間隔が長くなると、まだ不応期にある心筋と不応期から脱した心筋が混在する(不整脈によって興奮しない心筋と興奮しうる心筋が混在する)状況となる。ここに短い(short)連結期で再度、心室性期外収縮が入るときに心室頻拍や心室細動に移行しやすいと考えられている。

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