心電図データベース
問題
69歳女性、当院整形外科にて左橈骨遠位端骨折の修復術施行。術後4時間ほど経過した頃、冷汗とともに左胸部痛を訴えるようになり、
循環器内科に対診依頼がありました。
術前には全く自覚症状なく、入院時の血圧は192/99mmHg、これまでに高血圧を指摘されていますが、治療は全く受けていません。
ニフェジピン5mgの内服が開始されています。手術室入室時、血圧は150/80mmHg、手術中は140/80mmHgにコントロールされ、
手術は1時間半で終了し病棟に戻っていました。左胸部痛は吸気時にやや増強するとのことです。
SpO2 100%(room air)、BP138/88mmHg、冷汗があり、嘔吐しています。
身体所見にその他、特記すべき異常所見はありません。その時にとられた心電図です。
血液検査所見は、WBC 10100/mm2、心筋トロポニン(—)、CPK 116IU/L、血糖値 155mg/dl、LDL—C 157mg/dl、
CRP 0.48mg/dl、D-ダイマー 1.1μg/ml(正常<0.9)
(出題者)公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 会長
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解答と解説
解答:
急性冠症候群
解説:
これまで全く自覚症状のない人に左胸部痛が出現しています。吸気時に増強するという記載があり、非定型的ではありますが、まず急性冠症候群を考えます。冷汗と嘔吐という全身症状を伴っており、手術後の痛みや不安感だけでは説明できません。鑑別診断としては急性肺血栓塞栓症ですが、SpO2が正常であることから否定的です。緊急で施行した心エコー検査でも右室負荷の所見はみられませんでした。 心電図の所見は、Ⅰ、aVL、V4-6でT波の逆転、ないし平低化を認めます。術前にとられた心電図を示します。術前の心電図と比較すると、問題の心電図異常は新しく起きた変化であることが分かります。この所見からは、左室高位側壁、左室前壁から側壁にかけて心筋虚血がおこっている可能性があります。
術前心電図
D-ダイマーが軽度増加、白血球数、CRPの増加、LDL-Cの増加、随時高血糖を認めます。
急性冠症候群の診断で緊急冠動脈造影検査が施行されました。右冠動脈に異常はありません。
冠動脈造影図
しかし、左冠動脈造影で、第一対角枝#9に90%、左冠動脈回旋枝鈍角枝#12に99%狭窄を認めました。
左冠動脈造影図
緊急冠動脈形成術(PCI)が行われ、同部位2箇所にステントが留置されました。
緊急冠動脈形成術(PCI)後の画像
患者さんの症状は急速に改善、処置が終了し病室に帰室されました。 心電図の経過をみると、
変化は明らかですが、その後、心筋逸脱酵素の上昇もなく心筋梗塞は回避できたと考えています。
患者さんには、冠動脈危険因子が重積しており、今後注意深い管理が必要です
心電図の経過