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症例108 心電図異常の精査目的にて紹介来院した 74歳女性

男性/74歳

問題

症例108
心電図異常の精査目的にて紹介来院した74歳女性

10年前より高脂血症と診断されスタチン製剤を服用している。今回特定健診を受診し、心電図異常を指摘され精査目的にて紹介来院した。自覚症状はなく、身体所見にも異常はない。胸部x線にも異常はない。その時に持参した心電図を示す。

(出題者)公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 会長
社会医療法人仙養会北摂総合病院 理事長 木野昌也

【図1 心電図】

解答

症例108
心電図異常の精査目的にて紹介来院した74歳女性

【回答】心電図電極の付け間違い

一般的には心電図計に付随した自動解析がよく使用されている。紹介医で記録された心電図も、自動解析では、四肢誘導と胸部誘導におけるQRS波の低電位とともに陳旧性心筋梗塞の疑いと診断された。
しかしこの心電図(図1)には不可解な点がいくつか存在する。まずは四肢誘導におけるQRS波の低電位である。四肢誘導で0.2mV前後、胸部誘導で0.6〜0.7mV程度である。心電図におけるQRS波の低電位の定義は、一般には四肢誘導ではQRS波の振幅が0.5mV以下、胸部誘導では1.0mV以下とされており、この症例の特に四肢誘導における低電位が際立っている。低電位は、心臓自身に問題があり正常の起電力が発生しない時、心臓周囲組織の伝導度が低下した時、あるいは、平均電気軸が変化した時におこる。低電位をきたす主な病態は、悪性腫瘍、心筋梗塞、肥満、うっ血性心不全、胸水貯留、心嚢液貯留、浮腫、粘液水腫、アミロイドーシス、肺気腫、気胸等の疾患が考えられるが、体格も普通で身体所見に異常なく、胸部x線でも異常はない。
次にⅡ、Ⅲ、aVFでQSパターンを示しT波も逆転している。これは陳旧性下壁梗塞の心電図であるが、四肢誘導の異常に比べ、胸部誘導は低電位以外に全く正常である。さらに、通常Ⅰ誘導はV5、あるいはV6誘導と同じようなQRS波形を示すはずであるが、この症例ではQRSの波形は全く異なっている。ここで、これはおかしいと気づく。
当院来院時に記録された心電図を示す(図2)。この心電図は正常である。四肢誘導のQRS波形は正常であり、Ⅰ誘導はV5あるいはV6誘導とよく似たQRS波形を示している。胸部誘導のQRS波形は図1と変わらない。
図1の心電図は電極のつけ間違いである。電極のつけ間違いを見破るコツはまず単極肢誘導を見ることである。つまり両手と足に電極をつけ、その電極を全て結ぶと三角形になり(アイントーフェンの三角形)、その中心、すなわち心臓の位置が0になる。電極が正しく装着されていれば心臓の中心から右肩の方向(右手)へ流れる電流がaVR、左肩の方向(左手)がaVL、下方(足)の方向がaVFとして記録される。
まず問題の心電図(図1)のaVFの波形を見て欲しい。このQRS波形は通常ではaVR誘導で見られる波形である。事実、図2のaVRに類似している。つまり足の誘導で、通常右手の誘導で見られる波形が記録されているのである。つまり足の電極が右手に誤って装着されていると考えられる。ついで図1のaVRを見ると図2のaVLに類似している。さらに図1のaVLは図2のaVFに似ている。すなわち右手の電極が左手に、そして左手の電極が足に、それぞれ誤って装着されたために起こったと考えられる。

足の電極  ⇨ 右手
右手の電極 ⇨ 左手
左手の電極 ⇨ 足

今度は双極肢誘導を見てみよう。Ⅰ誘導は右手の電極から左手の電極に向かって流れる電流が記録されているはずである。ところが右手の電極が左手に、左手の電極は足に誤って装着されたため、図1に記録されている波形は左手から足への電流がⅠ誘導に誤って記録されていることになる。これは図2のⅢ誘導に相当する。さらに図1のⅡ誘導(右手から足への電流)には、左手から右手に向かう電流が記録されている。これは、本来のⅠ誘導の波形の逆さ図に相当する。図1のⅢ誘導(左手から足)には、足から右手への電気の流れとなり、これは本来のⅡ誘導の波形の逆さ図に相当する。
図1の四肢誘導はQRS波形が小さいために判読が困難である。理解を助けるために、同様の条件で記録した心電図を図3と図4に掲載するので参考にしてほしい。
最近では、自動解析が一般的であるが、電極をつけるのは人である。電極の付け間違いは一定の確率でおこるものである。心電図の判読時には十分に留意する必要がある。

【図1:来院時に持参した心電図】

【図2:当院受診時に記録した心電図】

【図3:正常心電図】

【図4:電極つけ間違い】
足の電極を右手に、右手の電極を左手に、左手の電極を足にそれぞれ装着して記録した心電図

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