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心電図データベース

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症例96 労作時呼吸困難と動悸を訴え受診した58歳女性

女性/58歳

問題

58歳女性、労作時呼吸困難を訴え近医より紹介来院。
これまで特に自覚症状はなかったが、最近百貨店へ買い物に出かけると、3階まで階段を上る時に友人についていけない。動悸と息切れを感じる。自分のペースで階段を上ると問題はないとのこと。
身体所見は、BP140/85、Pulse 76 regular、チアノーゼはない。SpO2 98%、心臓の聴診でS2は分裂なく亢進、3/6度harsh midsystolic ejection murmur(最強点胸骨左縁2-3肋間)。
その際に記録された心電図である。

(出題者)公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 会長
社会医療法人仙養会北摂総合病院 理事長 木野昌也

【心電図】

 

心電図

解答と解説

【解答】
右室肥大(肺動脈弁狭窄症、心房中隔欠損症疑い)、右心房肥大、1度房室ブロック
 
【解説】
心電図は正常洞調律(70/分)、PQ間隔は0.26秒と延長、QRS電気軸は、+150度の右軸偏位を認める。PはV1で2相性で幅広い(0.12秒)。V1におけるP波の成分を見ると、高い陽性P波(>2.5mm)が主なもので最後に小さな陰性P波を認める。右心房に対する負荷の増大による右心房肥大が考えられる(図1)。
QRS波についてみると、(1)aVR、V1−2の右室誘導で高いR波(>0.5mV)を認め、V1誘導でのR/S比>1.0である、(2)第Ⅰ誘導、V5−6等の左室誘導で深いS波を認める、(3) V1誘導の心室興奮時間(ventricular activation time, VAT)が0.04秒以上、(4)+150度の右軸偏位、さらに(5)Ⅱ、Ⅲ、aVF、V1−2でストレイン型のST低下とT波の逆転を認める。これらの5つの所見は右室の圧負荷を示唆する所見である(図1)。
胸部X線写真では心胸郭比は拡大、左第二弓の突出を認め肺動脈の拡張が考えられる。肺血管陰影は増強していない。左側面では右室の拡張は見られない(図2)。
心エコー検査では、右室壁の肥厚、右室は拡大し短軸で拡張期、収縮期ともに左室を圧排している像を認めた(図3)。
著明な三尖弁逆流を認め、右室圧は143mmHgと推測された。CT検査では、著明に拡大した肺動脈幹(図4a)と肺動脈弁に一致して、肺動脈弁の肥厚と思われる低吸収域を認めた。右室壁の肥厚を認め、特に右室流出路で顕著である。右心房は明らかに拡大している。心房中隔欠損は明確に指摘できないが、心房中隔の一部に陥凹した部分があり、これが欠損孔である可能性が高い(図4a-c)。
以上より肺動脈弁狭窄症、心房中隔欠損症疑いによる右室肥大、右心房肥大と診断した。患者さんに外科手術を勧めたが、なかなか同意が得られず、数年間外来でフォローした。9年後の2015年4月、心房頻拍から心房細動となり、頚静脈怒張を認めるようになり、ようやく根治術を受ける決心をされた。
 

【図1 V1誘導の拡大図】

図1 V1誘導の拡大図

【図2 胸部X線(正面像aと左側面像b)】

胸部X線(正面像aと左側面像b)

【図3 心エコー図】

図3 心エコー図

【図4 著明に拡大した肺動脈幹】

図4 著明に拡大した肺動脈幹

【図4-b 肥厚した肺動脈弁(矢印)と右室流出路における右室壁の肥厚】

図4-b 肥厚した肺動脈弁(矢印)と右室流出路における右室壁の肥厚

【図4-c 左房へ突出した心房中隔(矢印)】

図4-c 左房へ突出した心房中隔(矢印)

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