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心電図データベース

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症例92 24時間ホルター心電図で偶然にST低下を認めた65歳男性

男性/65歳

問題

来院の半年前、右腕のしびれと圧迫感を訴え大学病院を救急受診。 高血圧(収縮期圧200mmHg前後)を指摘されたが、頭部CT検査などに異常なく帰宅。
以後、家庭血圧は収縮期で130mmHg以下の状態が続いていたが、右腕のしびれが持続するため当院の総合内科を受診。
受診時の診察室ではBP166/90mmHgと高血圧を認めたためCa拮抗薬が処方された。
しかしその後、右腕のしびれもなくなり、特に自覚症状もなく家庭血圧は110mmHg前後と良好にコントロールされており、
降圧薬の服用を中止したいとの希望で循環器内科を受診した。
胸部不快感、動悸、呼吸困難といった心血管系の自覚症状はない。アルコールは飲まない。
タバコは20歳〜30歳までの10年間、20本/日の喫煙歴があるが、以後は禁煙している。
高脂血症(LDL-C 159mg/dl)を認めるが、その他には特記すべき異常はない。
その際に記録された心電図である(図1)。
24時間血圧を観察する目的で、24時間血圧測定と24時間ホルター心電図が記録された。
記録時間中、自覚症状は全くない。
17時12分~17時15分、自転車で走行中の心電図(図2)を示す。
自宅で安静時の心電図(図3)を示す。

 

図1 当院受診時の心電図

図1 当院受診時の心電図

図2 自転車で走行中

図2 自転車で走行中

図3 自宅で安静中

図3 自宅で安静中

解答と解説

【解説】 左冠動脈主幹部病変(無症候性心筋虚血)
来院時の心電図(図1)は全く正常である。
しかし自転車走行中に記録されたホルター心電図で心拍数の増加とともに、胸部誘導にて水平型のST低下を認めている(図2)。
安静時(図3)と比較するとその変化は明らかである。
左冠動脈病変を疑い冠動脈CTA検査が施行された(図4)。
左主幹部が完全閉塞し、右冠動脈末梢から血流が維持されている状況が明らかとなった。

 

図4 冠動脈CTA

図4 冠動脈CTA

 

今後の治療方針を決定するため、冠動脈造影検査が施行された。 左冠動脈は主幹部で完全閉塞(図5)、右冠動脈造影にて左冠動脈前下降枝は右冠動脈分枝(4PD)を経て逆行性に造影されている(図6)。
患者の希望により、左冠動脈主幹部に冠動脈形成術を施行し、同部位にステントを留置した。
左冠動脈主幹部病変は一旦狭窄を起こすと左冠動脈前下降枝と回旋枝領域の広範な虚血を起こすため、突然死や心原性ショックといった重大な転帰を取ることが多い。
一般には冠動脈バイパス術の適応とされているが、最近の医療技術や医療機材の進歩により冠動脈形成術が選択されることが増えている。
この症例は24時間血圧測定という目的で施行された24時間ホルター心電図で偶然に心電図変化が記録され、
精査目的で施行された冠動脈CTAにて左冠動脈主幹部病変が発見され、大事に至ることなく治療できた大変幸運な症例と言える。 左冠動脈主幹部病変で過去に何度も心筋虚血が起こっていたと想像されるが、患者自身の自覚は全くなかった。
安静時心電図だけで判断することの危険性を教えてくれた貴重な症例である。
 

図5 左冠動脈は左主幹部で完全閉塞している

図5 左冠動脈は左主幹部で完全閉塞している

図6 右冠動脈造影検査にて逆行性に左冠動脈前下降枝が造影されている

図6 右冠動脈造影検査にて逆行性に左冠動脈前下降枝が造影されている

図7 左冠動脈主幹部の形成術後にステントを留置した

図7 左冠動脈主幹部の形成術後にステントを留置した

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