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症例88 胸部痛を訴え救急受診した21歳の男性

男性/21歳

問題

2週間前に風邪症状、3日前より胸部痛が出現。
受診の前日の夜、入浴後に肩を揉んでもらった後から左右の鎖骨の下あたりにボールがぶつかったような鈍痛が出現し、 胸痛が持続するため、午前2時半に救急搬送されてきた。
胸痛は大きく息を吸い込むと増悪する。
BP144/96、脈拍113/分、SPO2 99%、体温37.2℃、身体所見には特記すべき異常はない。胸部X線に異常はない。
その際に記録された心電図である。

 

心電図

21歳男性の心電図

解答と解説

【解答と解説】 急性心膜炎を示唆する心電図
心電図所見は、洞頻脈(105/分)、PR間隔は0.14秒、QRSに異常なし。
QTc間隔は0.40secと異常なく、QRS電気軸は+75度である。
一見するとⅡ、Ⅲ、aVF でST上昇のように見えるが、しかし心電図を詳細に検討すると、特にⅡ誘導をよくみると、
ST上昇ではなくPR間隔の低下であることが分かる(図1、2)。
ST上昇、あるいは低下を判断する場合、基線はTP間隔である。
このTP間隔を基線として判断すると、STの上昇ではなく、実はPR間隔が低下していることが分かる(図2)。
これはSpodickの徴候と呼ばれる所見で、急性心膜炎による心房の心外膜側の傷害による変化で、
急性心膜炎の8割の症例で急性期に一過性に見られる所見である。
この症例でも、PR間隔の低下は一時的で、すぐに消失し、続いて典型的なST上昇を認めるようになった(図3)。

 

図1

図1

図2

図2

図3

図2

 

この心電図は、来院の5時間後に記録された(図3)。
PR間隔の低下は先の心電図と比較すると、ほとんど消失し、心膜炎に特徴的な著明なST上昇をaVR、aVL、V1を除く全誘導で認めている(stage 1)。
その翌日にはST上昇はさらに著明となった。急性心膜炎の診断にて当院の循環器内科に入院後、胸痛にたいしてはNSAIDs(ロキソプロフェン)を投与。6日目に軽快退院となった。
経過中、心膜摩擦音は全く聴取されず、心エコー検査でも心嚢液は明らかではない(図4)。
その後の心電図経過をみると、約2週間でT波は逆転(stage 3)、7週間後には、逆転していたT波はほぼ正常に戻った(stage 4)(図5)。
ペア血清によるウイルス抗体価では原因ウイルスは同定できなかった。
この症例は、風邪症状に続く典型的な胸痛とPR間隔の低下、続いて認められたST上昇、その後の典型的な心電図変化により急性心膜炎と診断された。
 

図4

図4

図5

図5

 

参考文献
Spodick DH: Diagnostic electrocardiographic sequences in acute pericarditis: significance of PR segment and PR vector changes. Circulation. 1973:48:575-580

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