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心電図データベース

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症例85 持続する頻拍発作

男性/61歳

問題 

主訴:動悸
現病歴:食道がん術後で外科病棟入院中。動悸が持続するため、循環器内科へコンサルトされた。
身体所見:意識レベル 清明。体温36.5℃、血圧100-78mmHg、脈拍130bpm
既往歴:心疾患の指摘無し、特記すべき薬剤の服用無し。

心電図①
当科を紹介された際の心電図を示す。 心拍数130bpmのwide QRS tachycardiaを認め、QRS幅は200msと拡大し、下方軸、右脚ブロック波形を呈している。 血圧は安定しており血行動態は破綻していない。
後日施行された心エコーでは左室壁運動異常なく、EF:63%とほぼ正常心機能であった。左房径は44mmと拡大を認めた。

61歳男性 の心電図1

 

心電図②
引き続き記録された心電図である。
頻拍は持続しているが、QRSがwideからnarrow、そして再びwideになる現象が繰り返し認められた。Narrow QRSになるとRR間隔が延長し、そのRR間に下壁誘導で下向き、V1で上向きの波形(周期240 ms)を認めた(↓)。

61歳男性 の心電図2

(出題者)大阪府立済生会富田林病院 院長 宮崎俊一

 

解答と解説

【解説】
  診断は間欠性A型WPW症候群に合併した通常型心房粗動である。
  心電図①はwide QRS tachycardiaを呈しており、まずは頻拍の原因が心室性か上室性かの鑑別が必要になる。
 上室性頻拍のwide QRS tachycardiaは多くが変行伝導であるが、変行伝導の場合、QRSは比較的narrowであり(140ms程度)、QRS波形の立ち上がりは急峻なことが多く、V5-6で小さなq波を認めることが多い。
 本症例ではQRSの始まりはslurであり、QRSは200 msを超えて非常に広く、変行伝導よりも心室頻拍またはWPW症候群に関連した頻拍(副伝導路を順方向性に伝導する頻拍)が疑われる。Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導ではQRSの間にわずかにnotchのような波形を認め、これが心房波だとしても、QRSと同期しているので、心室頻拍(1:1逆伝導を伴う)かWPW症候群に関連した上室頻拍かの鑑別は困難である。
 心電図②では一過性に副伝導路の伝導がブロックされてRR間隔が延長し、鋸歯状波が確認できる(矢印)。 ここで確認される粗動の周期(230 ms)は心電図①のRR間隔(460 ms)のちょうど1/2であり、副伝導路を2:1伝導で伝導していたことがわかる。
むろん、洞調律時にδ波が陽性であることが判明していれば、心電図①の時点で心室頻拍は否定的であり、WPW症候群に合併した反方向性房室結節や心房粗動の2:1と診断される。
 本症例では血行動態に問題がなかったため、Ic群薬の静注を行ったが、緊急を要する場合や抗不整脈薬が無効な場合は直流通電も考慮される。
長期的なI群抗不整脈投与は、逆に頻拍回路を安定させてしまうことや、粗動周期を延長させて1:1房室伝導となり、状態の悪化を招くこともある。
従って、本症例に対しては後日、カテーテルアブレーションを施行し、心房粗動およびWPW症候群とも根治に至った。
これらに対するアブレーションの根治率は95%を超えるため、いたずらに抗不整脈薬による治療を続けることなく、根治的治療を目的とした積極的な専門医への紹介が必要である。
 

問題の心電図①(再掲)

問題の心電図1(再掲)

問題の心電図②(再掲)

問題の心電図2(再掲)

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