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症例79 労作時息切れと起坐呼吸

女性/88歳

問題

6年前に外傷を伴う失神発作があり、精査の結果、洞不全症候群(洞停止と接合部補充調律)による徐脈(36bpm)を認めDDDペースメーカー植え込みを受けた。
その後、ペースメーカーの設定は、不要な心室ペーシングを抑制するマネージド・ベントリキュラー・ペーシング モード(房室伝導の状態によりAAIRとDDDRが切り替わる設定)でペーシングレートは60~130bpmに設定されていた。
半月ほど前より家事などの軽労作でも呼吸苦を生じるようになり、10日ほど前からは下肢浮腫が出現し、仰臥位、側臥位になると呼吸困難を自覚するため、椅子に座って睡眠を取らざるをえなくなった。胸部X線写真では、以前と比較しても心陰影の拡大や肺うっ血像は明らかではなかったが、BNPは9ヶ月前の25.6pg/mlから288.5pg/mlに増加していた。外来受診の心電図では心拍数は65bpmで、マグネットレートは本来の設定である85bpmにはならず65bpmのまま変化を認めなかった。
3ヶ月前の心電図(図1)と外来受診時の心電図(図2)を示す。

 

図1 – 3ヶ月前の心電図

3ヶ月前の心電図

図2 – 外来受診時の心電図

外来受診時の心電図 外来受診時の心電図

解答と解説

(バッテリー低下による)ペースメーカー不全
 
3ヶ月前の心電図では、P波の直前にペーシングスパイクが認められるがQRSの直前にはペーシングスパイクはなく、かつQRSは正常であることから、ペースメーカーはAAIないしはDDD(心房ペーシング+心室センシング)で正常作動していることがわかる。これと比較して外来受診時の心電図では心拍数の減少を認め、基本調律は65bpmの心室ペーシングとなっている。一部にP波が認められ、房室伝導を介して正常QRSが見られるところもあることからVVIモードで作動していると考えられる。この所見からは心房リード不全も鑑別に上がるが、マグネットレートが期待される値にならないことから、ペースメーカー本体に異常があると判断される。本症例ではペースメーカーチェックを行い、ペースメーカーがバッテリー低下に伴い推奨交換指標(Elective Replacement Indicator;ERI)を示していることがわかった。心房収縮と心室収縮の連動が消失したこと、かつ、心拍数が通常より減少したことが心不全を惹起したと考えられたが、実際ペースメーカー交換後は心電図も回復し心不全も改善した。
 
 ペースメーカーのバッテリー低下に伴う変化としては、電池電圧の低下が進むと最初の段階としてERIが示される。ERIが表示された後でもペースメーカーは最短でも3ヶ月は正常作動するとされているので、3ヶ月以内の間隔での定期的ペースメーカーチェックがすすめられている。次の段階としては、DDDやVDDなど心房、心室両方にペースメーカーリードが存在する場合であれば、心房リードを介する機能を停止してVVIに変わるなどの機能の制限がなされる。次いでセンシング機能が制限され、VVIからVOO(AAIの場合はAOO)へのモードの変更がなされる。さらに電圧が低下するとペーシング電圧の低下やペーシングレートの低下が起こり、最終的にはペーシングができなくなる(EOS;End of ServiceあるいはEOL;End of Lifeという)。ERIはペースメーカー製造各社で異なるが、本例のペースメーカーのようにマグネットレートが85bpmから65bpmに突然変化するもの、マグネットレートが初期値の90bpmや100bpmから徐々に低下し80bpmとなったところをERIとするものなどがある。本症例では4ヶ月前のフルチェックでは問題がないとされ、3ヶ月前のマグネットレートも正常であった。それにもかかわらず、定期受診時にVVIへのモード変更を伴うERIが出現しており、3ヶ月毎のペースメーカーチェックの重要性を再認識させる症例といえる。

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