心電図データベース
問題
72歳、主婦。少女時代から心雑音を指摘されていたが、特に自覚症状はない。
(出題者)元髙階国際クリニック院長 公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 理事長 髙階經和 |
心電図
解答と解説
一見して、この心電図は右軸偏位を取っている事が明らかです。また第II誘導、第III誘導、aVF誘導の各誘導でP波がテント型を示し、第II誘導ではP波の高さが2.5mmとなっているところから 右房圧が高いと考えられます。胸部誘導のV1~V2で2峰性のP波が見られるところから、左右心房圧が高くなっていると考えられます。またV4~V6に深いS波が見られることは右室肥大を意味します。 身体所見として、72歳の年齢よりは遥かに若い婦人で、血色も良く心臓症状もありません。頸部静脈の怒張も見られませんが、聴診所見として肺動脈部位にIII/VI度の収縮早期駆出性雑音と、II音の固定性分裂が聴かれるところから、「心房中隔欠損・2次孔開存」と診断できました。
この方を30年間、定期的に診療してきましたが、胸部レ線も殆ど正常範囲の形状を維持しています。成人に見られる先天性心疾患を視る機会は比較的少ないと考えられますが、下図に示しているように、左房から右房への血流が吸気時にも呼気時にも見られます。呼吸によって多少シャント量が異なるため、厳密には0.05秒の固定性分裂が一定しているとは言えないと思います。
成人における心房中隔欠損は、中隔にシャントが存在しますが、経年変化として、左右の心室の駆出機能がバランスを保つ人があり、全ての患者が30代になるとアイゼンメンジャー化(Eisenmenger)するのではありません。現在は小児心臓外科の進歩により、小児時期に殆どの先天性心疾患が手術により治療を受けていますので、成人の先天性心疾患を診る機会が少なくなりました。