心電図データベース
問題
今回は、ミャンマー在住の医師から送られてきた心電図を取り上げる。
病歴:40歳女性、3児の母親。現在妊娠7ヶ月、生来健康であり心疾患やリウマチ熱などの病歴はない。
病院の緊急外来に搬送された時は、無症状であった。入院3時間後、急に呼吸困難に陥った直後のものである。
(出題者)元髙階国際クリニック院長 公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 理事長 髙階經和 |
心電図
解答と解説
解答・解説:
この女性は緊急入院直前に『青蛇』(Green snake; アフリカ、東南アジアを始め、全米でも生息している猛毒の蛇)に咬まれた。入院直後にはバイタルサインは正常で急性蛇毒症状は見られなかった。3時間後突然、急性呼吸困難、安静時の心窩部痛、動脈血酸素飽和度(SO2)が99%から88%に下降し、中心性チアノーゼ出現。
血圧:90/60mmHg、心拍数:136回/ 分。呼吸数:48回/分。頸静脈怒張が著明となり、聴診により左右肺下野にクラックル音。尿素窒素およびクレアチニンは正常であったが、血中カリウム:2.69mol/l。血液凝固時間、脳および胸部CTスキャンは正常であったが、その直後に死亡した。
死亡直前の心電図
死亡直前の心電図は、血中カリウムが低カリウム血症を示し、死戦期にみられる典型的な所見を示しているのは興味深い。
(参照:Burch, G.E.:A PRIMER OF ELECTROCARDIOGRAPHY, 3rd ed.p.150, 1955, Lea &Febigar.)
青蛇は攻撃的ではなく毒性も同類の『黒蛇』に比べて弱いが、平均の身長は1メートル強である。
神経、および心臓に対する毒性は弱いとされるが、咬まれた場合は1~3時間で死に至ることがある。
恐らくこの夫人も妊娠中であり、心臓に対する毒性が特に強く出たためと考えられる。