心電図データベース
問題
糖尿病、高コレステロール血症にて加療中であったが、胸痛や息切れ、眼前暗黒感や失神の自覚症状はなかった。
2012年11月に白内障手術をうけることとなり12誘導心電図(図1)を施行された。
術後の12誘導心電図(図2)と術中のモニター心電図(図3)で異常を指摘され心精査することとなった。
心エコーで器質的心疾患は指摘できず、冠動脈CTでも冠動脈病変はなかった。
解答と解説
解説:
術前心電図(図1)では、1度房室ブロックがあるのみで、QRS幅や電気軸は正常である。術後の心電図(図2)は、完全左脚ブロックから2拍の正常伝導ののち完全右脚ブロックに変化している。この現象は、交代性ブロックと呼ばれ完全房室ブロックに移行する危険性が高い所見である。
図3の術中モニター心電図では右脚ブロック波形から下段3拍目でP波ののちのQRSが突然脱落しており、脱落前後のPQ間隔が変わらないことからMobitzⅡ型の房室ブロックを呈していることがわかる。2013年1月初旬の心電図(図4)では、心拍数45回/分の徐脈を呈している。RR間隔は整で、PP間隔の2倍となっており、P波と対応があるQRSのPQ間隔は一定であることから、2:1の房室伝導を示す高度房室ブロックとなっていることがわかる。
この時点でも心不全症状や眼前暗黒感・失神はなく無症候であった。徐脈による心不全症状や失神がなかった理由は、覚醒時に高度徐脈(心拍数30回/分未満、3秒以上のRR延長)が生じていないことと、運動負荷心電図にて負荷時には1:1房室伝導を示すからではないかと考えられる。高度徐脈があれば、この時点でペースメーカーの植え込みの適応がある。高度徐脈がなくても徐脈による症状がある高度房室ブロックはペースメーカー植え込みの適応であるが、本症例は無症候であり経過観察となった。
2013年1月初旬に軽労作での息切れ・動悸が出現したため来院。来院時の心電図(図5)ではRR間隔とPP間隔は一定であるが、PR間隔は常に変動しており、P波とR波には対応がないことがわかる。つまりすべての心房興奮は心室には伝導せず、心室の調律はQRS幅の広い42回/分の心室固有調律となっている。心房興奮と心室興奮の協調性が完全に消失した完全房室ブロックの状態であり、心不全症状もあることからペースメーカー植え込みの適応である。完全房室ブロックの心電図でP波が脱落しているようにみえることがあるが、これは脱落しているわけではなくP波はT波やQRS波に隠れているだけである。明瞭に判断できるPP間隔を整数倍して心電図をたどっていくと、QRS波やT波にあらわれるノッチやわずかな波形の変化からP波の存在が指摘できる。
本症例は、ペースメーカー植え込み後に心不全症状が改善し退院となった。完全房室ブロックに至る心電図経過が隈なく記録された興味深い症例である。