心電図データベース
問題
発作性心房細動にて救急外来を受診することがしばしばあり、今朝から動悸、胸部不快感を認めいつもの発作と思い サンリズム(ピルジカイニド:Ic抗不整脈薬)屯用にて様子をみていたが治まらず時間外受診する。
意識は清明、やや苦悶様顔貌。脈拍182/分(整)、血圧106/90mmHg, SpO2 95% であった。
図1は来院時の12誘導心電図である。
(出題者)美杉会男山病院 副院長 小糸仁史 |
図1 来院時心電図
解答と解説
心電図の解説:
所謂、Wide QRS complex tachycardia (WCT) である。
WCTの鑑別として心室頻拍(VT)、発作性上室頻拍(PSVT)や心房粗動の変行性伝導(aberrant ventricular conduction)、WPW症候群など早期興奮症候群の副伝導路を順行し房室結節を逆行する房室結節リエントリー性頻拍などが上げられる。他にも、三環系抗うつ薬や高カリウム血症などでもみられる。
既往歴や全身状態が重要であり、虚血を含む器質的心疾患の存在、意識状態や血圧低下などはVTを疑う所見であるが、これらがみられなくともVTは否定できない。
心電図からは心拍数、電気軸、QRS間隔、QRS波形が鑑別に役立つが絶対的なものではない。房室解離や融合波形(fusion/capture beats)が見られればVTの可能性が高い。本症例は半年前の心臓カテーテル検査で冠動脈に異常なく、壁運動良好で器質的心疾患も否定されていた。意識清明で、心拍数182/分にも拘らず血圧は保たれており、R-R間隔の変動は見られず一定である。左脚ブロックパターンでQRS間隔>0.16秒の時はVTの可能性が高いが、IaやIc抗不整脈薬を服用している患者ではPSVTのaberrant conductionでもQRS間隔が広くなる。以前より早期興奮症候群も認めておらず、PSVTのaberrant conductionとしてワソランの静注が行われた。
静注終了時には図2のモニター心電図の如くP波に続くnarrow QRS comolexと変行伝導を伴う上室期外収縮の散発から正常洞調律へと復帰した。
しかしながら、救急外来で不安定な状態の患者に何の情報もなくWCTがみられ診断に苦慮した場合は、VTとして対処することが適切である。
図2 モニター心電図
図3 心電図