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症例115 不整脈を伴う右室拡大の一例

男性/25歳

問題

25歳男性
2歳の頃から心雑音指摘され、精査の結果、三尖弁逸脱に伴う中等度の三尖弁閉鎖不全症を指摘され経過観察されていた。
中学校で野球部に入った際には周りと同等に運動していたが、特に周りと比べて疲れやすいと感じたことはなかった。
13歳の時に学校検診で心房粗動を指摘され、電気的除細動にて洞調律化され、その後アブレーションを施行された。
除細動とアブレーション治療の間の治療経過中に7連発の非持続性心室頻拍も認められた。
以後、洞調律で経過し、動悸や失神の自覚はない。転居のため、当科を紹介されたが、下記の心電図および心エコー所見を認め精査目的に入院した。

 

【既往歴】 特記事項なし
【内服】 なし
【家族歴】 突然死、失神等なし。祖父が心臓が悪いといわれたことがあるが詳細不明。
【生活歴】 タバコ:なし アルコール:機会飲酒

 

【質問】
1.心電図の異常所見は何か。
2.疑われる疾患は何か。

 

心電図

 

心エコー
1.傍胸骨長軸像

2.短軸像

 

猪子 森明(田附興風会医学研究所北野病院 循環器内科部長)

解答

1.1度房室ブロック、完全右脚ブロック、V1-4の陰性T波
2.不整脈原性右室心筋症(ARVC)の疑い

 

不整脈原性右室心筋症(ARVC)は右室心筋の線維化や脂肪変性に伴う右室の拡大と機能低下を来す心筋症で、多くの症例で右室起源の心室性期外収縮や心室頻拍による症状を初発症状とする疾患である。
2010年に改訂された新診断基準では、①心エコー、MRI、右室造影で限局性の右室壁運動消失、奇異性壁運動、心室瘤が認められること、②右室自由壁の組織所見で線維化が認められること、③再分極異常を認めること、④脱分極、伝導異常を認めること、⑤左脚ブロック型の心室頻拍を認めること、⑥家族歴や遺伝子異常を認めること、の6つのカテゴリーそれぞれに大項目と小項目の基準が設定され、大項目x2、大項目x1+小項目x2、異なるカテゴリーの小項目x4で確定診断となる。(文献1)
ARVCの心電図所見としては③、④のカテゴリーに記載されているが、
③再分極異常として
大項目
a.右側前胸部誘導(V1~V3)あるいはそれを越えた誘導での陰性T波
(14 歳以上で120msec 以上の完全右脚ブロックがない場合)
小項目
b.右側前胸部誘導(V1~V2)あるいはV4~V6で陰性T波(14歳以上で完全右脚ブロックがない場合)
c.胸部誘導(V1~V4)で陰性T波(14歳以上で完全右脚ブロックがある場合)
④脱分極・伝導異常
大項目
a.V1~ V3でイプシロン波(QRS波終末とT波間にある再現性のある低電位波形
小項目
b.体表面心電図QRS幅が110msecを超えることなく、加算平均心電図の3つの遅延電位陽性基準のうち1つ以上が陽性(f-QRSが114msec以上、LAS40が38msec以上、RMS40が20μV以下)
c.完全右脚ブロックがない場合で,V1~V3のS波谷点からQRS終末まで(R’を含む)までの終末伝播時間が55msec以上

 

本例は①の大項目1つ+③の小項目(c)を充たし、小児期に認められた心室頻拍が左脚ブロック型であれば確定診断となるが、家族歴はなく、心筋生検所見(右室自由壁ではなく中隔)で線維化は10%以下で境界型の診断となった。
本例のような完全右脚ブロックの症例では、イプシロン波の同定が難しく、加算平均心電図所見や終末伝播時間の評価が判定に使用できないため、心電図所見で大基準をきたすことは困難となる。
ARVCと対照群の心電図所見の比較研究では、V1~V4のT波陰転化(本例でも認められる)がARVCで59%(対照群で12%)、V1誘導でのr’/s比が1未満(本例では1以上)という所見がARVCで88%(対照群で14%)認められ、有意差をもって頻度が高いという報告がある。
(文献2)本例はARVCが幼児期に発症する報告はまれとされといること、心臓MRIの所見からも心筋の線維化所見が乏しいことから、ARVCと確定診断に至るか注意深く経過観察する必要がある。

 

文献1 野上 昭彦 JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY 2014;34:245-263
文献2 Jain R et al. Circulation. 2009;120:477-487.

 

猪子 森明(田附興風会医学研究所北野病院 循環器内科部長)

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