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症例113 強い胸痛を訴え救急搬送された68歳男性

男性/68歳

問題

主訴:胸痛
現病歴:糖尿病と高血圧にて近医通院中であった。201○年7月○日、朝11時頃、安静時に初めて経験する強い胸痛が突然出現した。30分ほどがまんしていたが、冷感、悪心・嘔吐、眼前暗黒感が出現し、救急隊の派遣を要請した。同実12時05分に当院緊急外来に搬送された。強い胸痛はまだ続いている。
身体所見:意識レベル Japan Coma Scale のI-1。顔面蒼白、発汗過多、体温36.5℃、血圧84-55mmHg、脈拍45bpm、胸部聴診所見 I音強度に変動あり。過剰心音なし、病的雑音なし、呼吸音正常。腹部や四肢に異常なし。

心電図① A
 来院時の標準12誘導心電図を示す。心拍数は45/分の徐脈を呈し、顕著なST上昇をII, III,aVFに認め(IIIで最大0.62mV)、V2-5でST低下を認める。
診断は何か。

 

心電図① B
次いで、右側胸部誘導(V3R~V4R)を記録した。
診断は何か

 

心電図

栗田 隆志(近畿大学医学部附属病院 心臓血管センター)

解答

症例113
強い胸痛を訴え救急搬送された68歳男性

解説:心電図①Aの診断は急性心筋梗塞(下壁)に合併した発作性完全房室ブロックである。ST上昇の程度はIII>II誘導であり、右冠動脈が責任血管であることが示唆される(回旋枝による下壁心筋梗塞ではST上昇はII>IIIのことが多い)。前胸部誘導でのST停波はST上昇の鏡面像としての所見である(心電図②A参照)。
P波の振幅は小さいが、V1誘導で明瞭に観察され、心房レートは102/分、心室レートは44/分である。完全房室ブロックの心電図では規則正しい徐脈(RR間隔)と常に変動するPR間隔が特徴的である(心電図②A参照)。聴診所見では心房と心室の収縮が同時に生じる際にI音が大きくなる現象(大砲音)が認められる。
心電図①BではV4RのST上昇(0.16mV)を認め、右室梗塞の合併が示唆される(心電図②B参照)。本患者では心臓エコー検査により右室の一部に無収縮領域が確認され、右室心筋梗塞の診断基準を満たした[大基準1)+2)と小基準1)]。
下壁急性心筋梗塞の症例では右室梗塞の合併の有無を知るため、右側胸部誘導の記録は簡便で有用な検査法であり、必ず記録するよう心がける。

心電図① 心電図②

右室心筋梗塞の診断基準(文献1より抜粋)

A.剖検
B.大基準
1)心電図V4RのST上昇(0.1mv 以上)
2)心エコーで右室のakinesis またはdyskinesis
3) 平均右房圧≧10mmHgかつ(平均肺動脈楔入圧-平均右房圧)≦ 5mmHg
4)右房圧のnoncompliant 波形
5)肺動脈圧の交互脈または早期立ち上がり
C.小基準
1)下壁梗塞
2)心エコーの右室拡大
3)平均右房圧≧ 6mmHg(安静時)
4)Kussmaul 徴候
5)99mTc- ピロリン酸の右室への集積

確定診断
1.剖検診断
2.臨床診断
 1)大基準2 項目以上
 2)大基準1 項目と小基準2 項目以上(心エコー,平均右房圧の項目は重複しないこと)
 3)小基準4 項目以上

文献
1) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告).
急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

栗田 隆志(近畿大学医学部附属病院 心臓血管センター)

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