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症例104 徐脈の精査目的にて紹介来院した86歳女性

女性/86歳

問題

30年以上前より高血圧に対して治療を受けている。来院の1ヶ月前に台所で炊事をしている時に息苦しくなり失神。近くの病院へ救急搬送されたが、熱中症との診断にて点滴治療を受け帰宅した。来院の二日前に近医で市民検診を受けた時に徐脈を指摘され精査目的にて紹介来院した。自覚症状はない。
BP 170/60 mmHg、Pulse 44 regular、身体所見に特記するものはない。
その時に記録された心電図を提示する。

 

【図1】来院時の心電図

心電図1 来院時の心電図

解答と解説

【解答】
3枝ブロック(完全右脚ブロック+左脚前枝ブロック、2度房室ブロック)
 
心電図の最下段にリズム記録(Ⅱ誘導)が示されている。洞調律であるが、よくみるとT波の上にP波が記録されているのが分かる。2:1房室ブロックである。
心拍数は42/分、房室伝導されたPR間隔は0.30秒と延長している。QRS幅は0.15秒と幅が広く、V1誘導でrSR’と幅広いR‘を認め、Ⅰ、aVL、V5-6誘導にて幅広いS波を認める。完全右脚ブロックの心電図である。
さて問題は平均電気軸が -50度と左軸偏位を示していることである。QRS波の最初の0.04秒のベクトルは、Ⅰ、aVLでq波、Ⅱ、Ⅲ、aVFにてr波を認めることから、右下を向いている。つまり心室中隔の左室面と左室下壁が興奮している状態である(図2-①)。次の0.04秒のベクトルをみると、Ⅰ、aVLで高いR波を認め、Ⅱ、Ⅲ、aVFにて深いS波を認めることから、左上、つまり左肩に向かっている。V5-6で深いS波がみられることから、左室の高位側壁の興奮が起こっていることが分かる(図2-②)。これは左脚前枝ブロックの心電図である。
 

【図2】
完全右脚ブロック+左脚前枝ブロックの心電図におけるベクトルの方向

完全右脚ブロックと左脚前枝ブロックの心電図におけるベクトルの方向

aVLにて高いR波( R in aVL ≧ 11 mm)を認めるが、ストレイン型のST変化はなく、左脚前枝プロックによるものと考えられる。
その後の0.09秒は右脚ブロックによる右室の遅れた興奮によるベクトルである(図2-③)。この心電図では、完全右脚ブロックに加え、左脚前枝ブロックを認めることから、房室間の伝導は左脚後枝でのみ行われているが、その伝導も障害されており、2度の房室ブロックを示している。
完全房室ブロックの危険性が高い心電図である。
完全房室ブロックに移行する危険性が高いため、循環器病棟に入院。病棟入院後、心電図モニターにて観察をしていたところ、4〜8秒のポーズを頻回に認めるようになったため、ペースメーカーの植え込みを行った。
 

【図3】刺激伝導系

刺激伝導系

左脚はヒス束から分枝した後、左室中隔面から左室自由壁に向かう複数の繊維群を形成している。左脚は前枝と後枝の2枝に分かれるとする説、中隔枝を含む3枝とする説、あるいは明らかな分枝はなく扇状に分布しているとする説がある。このように左脚の形態には個人差が大きいが、心電図学的には左脚を前枝と後枝に分類するのが一般的である。左脚前枝は左室の前壁寄りに分布する長く薄い構造の線維群で、左室流出路から左室前乳頭筋の基部に向かって分布し、プルキンエ線維に移行する。左脚後枝の線維は幅広く厚い構造で、心室中隔から左室後乳頭筋の基部へ向かいプルキンエ線維に移行する。線維の構造上、左脚後枝に比べ、左脚前枝の障害の出現頻度が多い(1)(図3)。
8年前の心電図は、洞調律でPR間隔は0.24秒と延長、完全右脚ブロックであるが、QRS平均電気軸は -10度と正常である。この時には左脚前枝ブロックの所見はみられない(図4)。
 

【図4】8年前に記録された心電図

図4 8年前に記録された心電図

8年前から今回までの心電図の経過を見ると、当初、完全右脚ブロックがあり、ついで左脚前枝ブロックが発症し、左軸偏位となっている。同時に左脚後枝にも伝導障害を認め、2度房室ブロックとなった。
完全右脚ブロック+左脚前枝ブロック、あるいはさらにPR間隔の延長(左脚後枝ブロック)を認める心電図が完全房室ブロックにまで進行する確率は、一般にはそれほど高いものではない。554例の症例中、完全房室ブロックにまで進行する頻度は、一年に1%との報告がある(2)。その一方で、完全房室ブロックにまで発展した症例は10〜16%とする報告もある(3)。完全房室ブロックになっていなくとも、今回の症例のように失神などの既往がある場合にはペースメーカーの植え込みが奨励されている。
 

【図5】心電図の経過

図5 心電図の経過

参考文献
1. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)
臨床心臓電気生理に関するガイドライン(2011年改訂版)
日本循環器学会ホームページより
2. McAnulty JH, Rahimtoola SH, Murphy E, DeMots H, Ritzmann L, Kanarek PE and Kauffman S: Natural history of “high-risk” bundle-branch block: final report of a prospective study. New Engl J Med 1982;307:137-43
3. Scanlon PJ, Pryor R, Blount SG Jr: Right bundle-branch block associated with left superior or inferior intraventricular block. Clinical setting, prognosis, and relation to complete heart block. Circulation 1970;42:1123-113

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