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心電図データベース

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症例100 軽労作時の胸部不快感で来院した 72歳男性

男性/72歳

問題

1週間前から入浴時に胸部不快感を自覚するようになった。 連日同様の症状を認めていたが平地歩行では特に自覚症状はなかった。 来院時の朝、着替えをしていたところ同様の胸部症状を自覚し安静で改善した。 自宅近くの病院を受診したところ心電図変化を認めたため当院へ紹介され来院した。 救急室にて記録された心電図を示す。
高血圧に対してアムロジピン5mg、カンデサルタン4mg, バイアスピリンが処方されている。
既往歴:2000年にくも膜下出血
喫煙歴は、タバコ10本/日x 54年間、飲酒は機会飲酒程度
身体所見は、135/76mmHg、脈拍 53/分、その他、特記すべき所見はない。

 

【図1】

心電図1

解答と解説

解説:不安定狭心症、左主幹部病変
 
心電図所見は、正常洞調律、Ⅰ、aVL、V2−6にてSTTの異常を認める。-80度の左軸偏位である。aVRにて1mmのST上昇を認める。
この症例は1週間前から始まった労作性狭心症である。来院の当日は服の着替えという日常生活の軽度の労作で狭心症が起こっており重症の冠動脈病変の可能性がある。高血圧、喫煙歴と危険因子が重責しており、しかも来院時、自覚症状のない安静時に記録した心電図で心筋虚血を示唆するSTT変化を認めている。
これらの所見より左冠動脈主幹部病変における急性の狭窄病変である可能性が考えられた。循環器内科に緊急入院となり、同日緊急冠動脈造影検査が施行された。
冠動脈造影検査結果を示す。右冠動脈には異常を認めない(図1)。しかし左冠動脈主幹部(#5)で90%狭窄を認め(矢印)、さらに左冠動脈前下行枝の入口部(#6)と左冠動脈回旋枝(#11)の入口部にてそれぞれ90%狭窄病変を認めた(図2)。
ついで、左冠動脈主幹部を中心に左冠動脈前下行枝、回旋枝にそれぞれ経皮的冠動脈形成術を施行。最後に同部位にステントを留置して終了した。その後、労作時の自覚症状は消失し、第4病日に退院となった。 心電図で、aVRにおけるST上昇は左主幹部病変を示唆する重要な所見として知られている。特に、V1と比較してaVRでのST上昇の程度が大きい場合、左冠動脈主幹部病変の可能性が高い。2001年の日本人における冠動脈造影検査結果を解析した報告によれば、感度(sensitivity)は81%、特異度(specificity)80%、診断の精度(accuracy)は81%と報告されている。(Yamaji H, Iwasaki K, Kusachi S et al: Prediction of acute left main coronary artery obstruction by 12-lead electrocardiography. ST segment elevation in lead aVR with less ST segment elevation in lead V1. J Am Coll Cardiol 2001;38:1348-54)。
左冠動脈主幹部病変は放置すれば予後不良の病変であり、冠動脈バイパス術や冠動脈形成術が必要である。この症例は、aVRにおける特徴的なST上昇から、左冠動脈主幹部病変が疑われ、緊急冠動脈造影検査が施行された。結果は、予想通り左冠動脈主幹部と前下行枝、回旋枝の入口部にそれぞれ重度の狭窄病変を認め、同部位に経皮的冠動脈形成術を施行し危うく難を逃れることができた貴重な症例である。現在、アスピリンとプラスグレルによる二重抗血小板療法が行われている。
 

【図1 右冠動脈には異常を認めない】

右冠動脈には異常を認めない

【図2 左冠動脈主幹部、前下行枝と回旋枝の入口部にそれぞれ90%狭窄病変を認める(矢印)】

左冠動脈主幹部、前下行枝と回旋枝の入口部にそれぞれ90%狭窄病変を認める(矢印)

【図3 経皮的冠動脈形成術後】

経皮的冠動脈形成術後

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