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髙階理事長エッセイ「One thing at a time」【第7回】

 

 

【第7回】

 

《は》 自主、自戒のことば~その(12)

 「 時にウイットを(sometimes, with wit) 」

  1969年9月、英国の製薬会社が、交感神経β受容体ブロッカー発売10周年を記念して講演会に招かれ、循環器専門10数名の方々と共に、わたしは英国とオランダへ旅しました。

 最後のディナーに招待された時、直前に団長のS先生がわたしの部屋に来られ「髙階先生、わたしの代わりにスピーチをお願いできませんか?」と頼まれました。
 咄嗟に「先生の様な立派な方の挨拶は出来ませんが、気楽に話して良いでしょうか?」「ええ、勿論お願いします」・・・ 
 そしてディナーの冒頭、わたしは立ち上がり英国調のアクセントで「皆様、今回の旅行を通して親切な皆様の御もてなしに心から感謝します。ここマンチェスターの街は「ジェームス・ボンド」(ショーン・コネリー扮する英国の諜報部員が登場する映画で世界的な人気を博した)が言う様に素晴らしい街です。S団長に代わりまして厚く御礼申し上げます」と言った途端にホストの方々は拍手喝さいで大笑いとなり、和やかな雰囲気に包まれました。

 ディナーも進み、最後のデザートが運ばれてきた時、ある先生がわたしに近づき、「ジェームス・ボンドって誰ですか?」と聞かれたのですが、返答に困りました。「あのー、いま話題の英国映画に登場する人物の名前です」「ああ、わたしは映画を余り観ないね」。一方、S先生は部屋を訪ねられ「髙階先生、素晴らしいスピーチ有難うございました」と御礼を述べられました。

挨拶は短く機転を利かせて。

 

《さ》 自主、自戒のことば~その(13)
 「 やればできる(it can be possible) 」

 何事を行うにも計画を立て、綿密に色々な点を調べた上で実現が可能だと判断した時に行動に移すのが良いと思います。

 世間で言われる言葉に「あの計画は羅針盤のない航海に出る様なものだ」と揶揄されることがあります。特に太平洋の荒波や、天候の急変、そして船の揺れなどは大きな船であっても多少は感じます。

 「太平洋独りぽっち」で有名になり、石原裕次郎さんが主演で映画にもなった堀江健一さん。最近、ご高齢になられたにも拘らず、再度太平洋を横断されました。その計画性、忍耐力そして何よりも精神力の強さに感銘を受けました。それが冒険家の姿なのだと思いました。

 何事にも通じるこの言葉は、人生にも当てはまると思います。子供の頃から大きな夢を持ち、毎日、着実に努力を積み重ねることです。その努力が何時の間にか実を結ぶのです。多くの人は物事がうまく行かないと、すぐに諦めて夢を捨てたり、また別の方向を選びます。

 わたし達の年代は第2次世界大戦の最中に少年時代を送りました。十分な食事もとれず、衣服も充分なものはなく、劣悪な環境に耐え、逞しく生きてきたと思います。その経験が、今に至るまで残っています。どんな事に直面しても、努力すれば出来るぞと自分に言い聞かせています。

 

為せばなる 為さねばならぬ何事も ならぬは人の為さぬなりけり


    江戸時代中期に上杉鷹山が詠んだ一首はいまも生きています。

 

次回に続く

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