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【理事長ブログ】『カラスの「カーちゃん」余話』

『カラスの「カーちゃん」余話』

                                          髙階經和

カラスと言えば、推理小説や、テレビ映画に登場する不吉な黒い鳥であり、必ず事件が起こる。その鋭い嘴(くちばし)でゴミをあさり、鶏のヒナを食べたり、モグラや野ネズミ、時には蛇を食べたり、時には人を襲うこともある。しかし全く違った印象を与えてくれたのが「カラスのカーちゃん」のエピソードであった。

 

第一話:「カラスのカーちゃん」

 十数年前、わたし達夫婦は大阪府医師協同組合が企画する「ドクターズ・ツアー」に参加した。昼食時に食卓を囲んで楽しい話題で親睦を図ろうとツアーガイドの女性が笑顔で司会を務めた。今まで参加した「ドクターズ・ツアー」は、毎回、参加者の表情は硬く、ツアーのはじめから終わりまで皆さんの態度が変わらなかったことが印象として残っている。しかし今回のツアーに関してはツアーガイドの女性の明るい性格や、話題の提供にこと欠かさない努力が実った。参加されたS先生夫妻が話された「カラスのカーちゃん」のエピソードは、カラスの成長記録とも言える楽しく、愛情に満ちたものがたりだった。

S先生の庭は可なり広く十種類以上の木々が植えられ、毎年沢山の鳥たちがやってくる。ある朝、先生の奥様が庭先に出てみると一羽の鳥のヒナが芝生の上に落ちもがいていた。何の鳥のヒナか分からない。

ヒナに餌を与える親カラス

「マー可哀そうに」と思ってそのヒナを手掌にのせ、親鳥を探したがどこの小枝にも鳥の姿は見られない。良く見ると右の主翼の部分が折れているようだ。大急ぎでそのヒナをもって家の中に入った。S先生も「おやっ、可哀そうに、助けてやろう」ということになり、先生が木製の舌圧子(ぜつあつし)を副木(そえぎ)として使い、右の主翼部分に固定した。

そして夫婦は共同で、ミルクや魚のすりみを作りスポイトを使ってヒナの嘴(くちばし)に流し込んでみた。お腹が空いていたと見え、ヒナは一気にミルクと魚のすりみを飲み込んだ。

こうした夫妻の努力に応えるようにヒナは見みる成長し産毛も段々と黒くなりはじめた時、二人は「カラスかな?」とお互いの顔を見合わせた。ヒナの食欲は旺盛で3週間目には明らかにカラスと分かる姿になった。S先生が「カーちゃん」と呼んでみると部屋の何処にいても大急ぎで歩いて寄って来た。奥様も可愛いいしぐさに愛着がわき、朝晩二回の食事の時間になると、キッチンに現れる。「カーちゃん、もう少し待っているのよ」と奥様が声をかけると、黙ったまま食卓の上にのぼり待っていた。2か月目には副木(そえぎ)もサイズが合わなくなったこともあったが、自然にとれ骨折も見事に治った様だ。自分でも自信がでて来たのか、部屋のあちこちを飛びまわり始めた。

夜になると「カーちゃん」の就寝時間が早い。夕食が過ぎるとに特別に竹製のかごに潜り込んで寝てしまう。しかし、困ったことに「カーちゃん」は午前4時頃になると目覚める。これにはS先生夫妻も閉口した、睡眠がとれない。「もうボツボツ、親もとに返してやったほうが良いのじゃないか?」と先生が提案した。夫妻は庭に「カーちゃん」を連れ出して、木立(こだち)の方を見ると一羽のカラスが枝にとまっているのが見えた。「カーちゃん、おかあさんが迎えに来たよ」といってその方角に飛ばしてみたが、すぐに先生夫妻のもとに帰ってきた。動物は生まれた時から人に育てられるとその人を親と思ってしまうのが習性だとS先生はフト思いだした。まるで子供のように甘えて帰ってきた「カーちゃん」を手放すのに一抹の寂しさを覚えたが、しかしいつまでも家に置いておくわけにもいかない。

数日後、大きな木の枝に母鳥の姿があった。遂に先生夫妻は決意しカラスを庭に置くとすぐにガラス戸を閉め部屋に入った。「カーちゃん」は暫く「カーッ、カーッ」と小さな声で鳴いていたが、やがて母鳥がいる木の方に向かって飛んでいった。先生夫妻は何ともやるせない気持ちになり、涙が頬を伝った。「もうカーちゃんには会えないのだ」という思いが一段と強くなった。

しかし、意外な事が起こった。翌朝ガラス戸越しに二羽のカラス親子が庭にいた。S先生を見つけると大きな声で「カアッ、カアッ、カアッ」と鳴き続ける。しかもその鳴き声はいつも聞くカラスの声ではなく、先生の耳には親しみのある声に聴こえた。奥様も大急ぎでガラス戸に近づいて開けてみると、二羽のカラスは逃げようともせず、「カアッ、カアッ、カアッ」と鳴き続けながら何度も頭を振る仕草を繰り返していた。「そうだ、世話になったお礼にきたのだ」と先生は思った。奥様も同じ思いだったに違いない。やがて二羽は庭を飛び立ち「カアッ、カアッ」と鳴きながら上空を旋回していたが、次第に高く遠くなり、そしてついに西の空に消えて行った。

「カーちゃんは別れに来たんだ」そう思うとS先生夫妻は二人ともドッと涙が溢れでて泣いた。それを最後に「カーちゃん」親子は二度と姿を見せることはなかった。久し振りに心に残る話を聞き、わたし達夫婦も感動したことを昨日の出来事の出来事のように覚えている。        

 

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 さてカラスの生態をインターネットで調べてみると、カラスは太陽が昇る前に起きて巣を飛び立ち餌探しに出掛けます。餌で満腹になると、昼間は休憩したり、遊んだり、水遊びをして過ごします。

数羽のカラスが水たまりで行水 

夕方になるとねぐらに向けて帰って来ますが、暫くは小さな集団を作ったり、離れたりを繰り返し、日没後はようやくねぐらに帰って眠りにつきます。秋から冬にかけて幾つかの集団が集まり一カ所で夜を過ごすようになります。それは体温調節や、お互いに情報交換ができ、パートナーを探すのに最適な環境で、しかも外敵から身を守るためだと考えられています。

 都会では公園など小枝の生い茂った場所に数十羽の小さな集団を作るが、郊外や田舎では数千羽の大きな集団を作ることがあります。しかし、この集団の数は季節、特に繁殖期によって変動する様です。

 

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第二話: 「カラスのラブソング」

 わたしが数年前の5月に経験した話です。わたしのクリニックはマンションの三階にありますが、丁度診察室が道路に面した2方向をガラス窓で囲まれた日当たりのよい部屋でした。そして部屋のガラス窓の下枠の高さに電線がありました。診察をしているとガラス越しに「コロッ、コロッ、コロッ、コロッ」と

いままで聴いたことのことにない優しい鳴き声を上げている鳥がいました。「一体どんな鳥が鳴いているのだろう?」と窓際に近付いてみるとそこにはカラスが一羽電線にとまっていました。「なんだ、カラスじゃないか。鳴こうとすれば良い声も出せるじゃないか」と思ったのです。

暫く(しばら)すると、カラスは道路の反対側にいるカラス目掛けて飛んでいきました。「そうか、あれがカラスのラブソングだったのか?」と思わずほんのりした気分になりました。動物は全て繁殖期になると鳴き声まで変わると言われていますが、皆さん方もその歌声に耳を傾けられたことがおありでしょうか?果たして人間の場合はどうでしようか、「僕と結婚して下さい」とパートナーに向かってプロポーズする男性の声も緊張とともに1オクターブ上がると聞いていますが、さてわたしの場合はどうだったのか、随分昔のことなので覚えていません。

 

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第三話:「カラスの選球眼」

この話も私事で恐縮なのですが、若い頃はよくゴルフにも出かけました。宝塚カントリークラブでプレーした時のことです。短い池越えのホールでした。そこはいつもカラスが群れを成していると聞いていましたが、噂どうり私がティーグランドに立つと、やかましい声で数羽のカラスがゴルファーをからかうように鳴いていました。まるで「下手くそ、池越えなんて打てるもんか」と言っている様です。

「やかましい!静かにしろ、気が散るじゃないか」とブツブツ文句をいいながら、真っ白な新しいボールを取り出し、9番アイアンでグリーン目掛けてまっ直ぐに打ったと思ったのですが、少し手前のラフに落ちました。池越えには成功したので、第2打でリカバリーしようと思っていた次の瞬間、集団から離れた一羽のカラスが私の真っ白なボール目掛けて飛んでいくではありませんか!そしてアッという間に私のボールを足の指で掴んでクラブハウスの方向に飛び去りました。「何だあれは!ロストボールになってしまったじゃないか!」と呆れると共に口惜しさがこみあげてきたのを覚えています。このゴルフ場を良く知る友人は「カラスがニューボールを横取りするのが有名で、私は古いボールしか使いません」と言って、彼は表面が茶色に変色したボールをズボンから取り出し、グリーン目掛けて軽く打ちワンオンに成功しました。彼の言うとおり、カラスはそのボールには目もくれなかったのです。さすがカラスの選球眼の良さに参ったホールでした。しかし、クラブハウスでプレー費用を払って外に出たのですが、新品のボールを売っているカラスには、出会いませんでした。

 

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第四話:「不覚にも選球眼が良くなかったカラス」

 読者の方々の中には或いは経験された方があるかも知れません。これは兵庫県小野カントリークラブでの出来事。何時(いつ)もの仲間4名でプレーしていた時のことです。丁度私が打ち終わって、友人がボールを打った直後に「当たった!カラスに!」と友人が興奮し声を挙げました。私もすぐに視線をその方向に向けると黒いカラスと思われるものが真っすぐに地面に向かって落ちていくのが見えました。「えッ!カラスに当たったッ?」そして4名が打ち終わり次のコースに向かったのですが、友人のボールがカラスを打ち落したことが分かりました。黒いカラスの体が緑のフェアウェイの上に横たわっているのが見えました。「カラスは僕のボールを良く見ていなっかに違いない」確かにカラスは迎撃ミサイルの様に友人の放った一打で、アッという間に昇天してしまったのです。

 なんだか後味の悪い経験でした。キャディさんの話によれば「一年に2~3回はありますよ。キット当たり所が悪かったのでしょう。一発で仕留めたのはお客さんが初めてです」とコメントしました。友人は「今日はカラスを殺してしまったので、もうプレーしない方が良いかも知れんね」といって、後半のプレーを中断しました。残り三人はその友人に掛けることばが直ぐに出ませんでした。暫くして友人の一人が「あのカラスの選球眼が悪かったからだよ」と慰めるようにいったことを今でも覚えています。

 

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カラスは雑食で家庭から出る生ごみを狙って早朝からポリ袋をつついている姿は誰でもご存知の通りです。一般にカラスは10年∼20年も生きると言われていますが、正確な事が分かっていません。カラスは生後すぐに命を落とす割合が高く、木の枝に作った巣から転落し、死に至るケースが多く、また猫や動物に襲われて命を落とすなどヒナの生存率は可なり低いといわれています。そして成鳥になるまで様々な困難がありますが、成鳥になると今度は立場が逆転し、ハトや小動物を狙います。

NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』に登場する江戸川の黒い鳥「キョエちゃん」は、毎回登場する毎にギャグを連発し、司会者の岡村さんをからかっているのはご存知の通りです。

カラスのIQは非常に高く(犬のシェパードに匹敵すると言われています)自分を馬鹿にした人間には攻撃を仕掛けたりします。私の長男もジョギング中、もう少しで襲われそうになったことがありました。

 柿の実を食べるカラス

カラスの習性や生態について、わたしが経験したことを思い出しながら書いて見ましたが、中でも一番印象に残っているのは、樹上の巣から転落し、命を落としていたかも知れない生まれたばかりのヒナを助けた「カラスのカーちゃん」に対するS先生夫妻の暖かな愛情ものがたりでした。

 

参考資料:

https://www.advan-group.co.jp/times/karasu_syuusei_seitai

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