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心電図データベース

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症例91 動悸発作で入院した28歳男性

男性/28歳

問題

主訴;動悸発作 現病歴;18歳の時に健診の心電図でWPW(B型)を指摘された。
26歳頃から起床時に15分程度の動悸を自覚するようになった。
28歳になり週に4-5回起床後や不安を感じるとき、特に睡眠不足やストレスが多い時に起こる動悸発作を認めるようになった。
動悸発作は突然発症し、10~20分持続し、突然停止する。
その間は意識がもうろうとなるため立っていることもできず、嘔気を伴う。 心臓電気生理学的な精査のために入院された。
入院時の心電図(図1)と、心臓電気生理学的検査の際に誘発された頻拍発作の心電図(図2)を示す。
診断は何か。

(出題者)公益財団法人田附興風会医学研究所
 北野病院心臓センター 循環器内科主任部長 猪子森明

 

図1 入院時心電図

図1 入院時心電図

図2 心臓電気生理学的検査で誘発された不整脈の心電図

 図2 心臓電気生理学的検査で誘発された不整脈の心電図

解答と解説

【回答】 WPW症候群(B型)に伴う発作性上室性頻拍(逆方向性房室回帰性頻拍)
 
 自然発作の心電図記録がないために、心臓電気生理学的検査にて不整脈の誘発を行った。
心房刺激による心房→心室伝導においてイソプロテレノール負荷下で290msecの不応期を有するKent束が認められた。
このKent束には逆伝導(心室→心房への伝導)は認められなかった。
心室期外刺激により図2に示す200bpmの頻拍が誘発され、収縮期血圧は110mmHgから60mmHgに低下した。
この頻拍発作は、心室→房室結節(遅伝導路)→心房→Kent束→心室のリエントリー回路による通常とは逆まわりの房室回帰性頻拍(AVRT)であった。 Kent束は右室三尖弁輪前側壁に存在し、アブレーション治療にて離断するとΔ波は消失した(図3)。
 WPW症候群の発作性上室性頻拍においては、上室性あるいは心室性期外収縮を契機として房室結節の順伝導と
Kent束の逆伝導による順方向性(Orthodromic)AVRT(図4b)を来す場合が多いが、
少数例(10%以下)において房室結節の逆伝導とKent束の順伝導による逆方向性(Antidromic)AVRT(図4a)が認められる。
順方向性AVRTではnarrow QRSの頻脈であるが、逆方向性AVRTではwide QRSの頻脈となるため、心室頻拍との鑑別には洞調律時心電図のΔ波の有無が重要となる。
AVRTやAVNRT(房室結節回帰性頻拍)による発作性上室性頻拍は致命的な不整脈ではないが、
本症例のように発作時に血圧低下にともなう症状を生じる場合もあるため、失神の鑑別疾患としても注意が必要である。

 

図3 アブレーション治療後の心電図

図3 アブレーション治療後の心電図

図4 逆方向性AVRT(a)と順方向性AVRT(b)の発症機序
   APC:上室性期外収縮、VPC:心室性期外収縮、AVN:房室結節

図4 逆方向性AVRT(a)と順方向性AVRT(b)の発症機序APC:上室性期外収縮、VPC:心室性期外収縮、AVN:房室結節

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