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心電図データベース

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症例89 右脚ブロックパターンのWide QRS tachycardiaの停止後に陰性T波を認めた1症例

男性 20代

問題

症例:20歳台 男性
主訴:動悸
現病歴:
中学生頃から年に数回、1時間程度続く動悸を自覚していたが、自然に停止していたため放置していた。
201X年4月、突然の動悸を自覚し、様子を見ていたが、2日経過しても症状が改善しないため、近医受診したところ、頻拍を指摘され、当院を紹介された。
来院時、心拍数150/分、血圧104/54、呼吸音正常、腹部や四肢に異常なし。
胸部レントゲン写真ではCTRの拡大や肺うっ血所見は認めなかった。
来院時の心電図を図1に示す。
抗不整脈薬の静注により頻拍が停止した直後に記録された心電図を図2Aに、その1週間後の心電図を図2Bに示す。
診断は何か(図1のQRS形態と矢印の波形に注目)。
停止にはどの抗不整脈薬が有効であったのか。
停止後の心電図で認められたT波異常の発生機序は何か(図2A)。
1週間後にT波の異常はどうなったか(図2B)。

(出題者)大阪府立済生会富田林病院 院長 宮崎俊一

 

心電図1

20歳台男性の心電図1

心電図2

20歳台男性の心電図1

解答と解説

【心電図の経過と解説】
心電図1
受診時の心電図では心拍数150/分のWide QRS tachycardiaを認める。QRSの軸は左軸(上方軸)、幅は120msで右脚ブロックパターンを呈している。
QRSの幅拡大は軽微であり、一見すると発作性上室頻拍の変行伝導のように見える。
しかし、IIやIII誘導で心室周期より長い間隔でP波(房室解離)が観察され(図1下段 II誘導の↓)、単形性持続性心室頻拍であることが解る。
本症例のように右脚ブロック型左軸偏位のQRSを呈する心室頻拍は特発性左室起源心室頻拍であり、ベラパミル感受性を示すことが多い。
頻拍の起源は左室下部中隔にあり、プルキンエネットワークが頻拍起源の一部であるため、QRSの拡大は120-140ms程度にとどまる。
心機能は正常であり、頻拍中に血行動態が悪化することはなく、突然死した症例は知られていない。
発作により日常生活が妨げられていれば、カテーテルアブレーションによる根治術を勧める。

 

心電図1

心電図2
図2Aは同薬剤5mg静注により頻拍が停止した直後に記録されたものであるが、II, III aVF, V5-6で顕著なT波の陰転化が認められる。
これはメモリー現象と言われ、長時間持続した異常なQRS軸(上方軸)が突然正常化(下方軸へ変化)した際に、 T波が以前QRSの呈していた方向に変位する(かつてのQRS軸をT波が覚えているように変位する)という意味で名付けられた。
この現象は人工心室ペースメーカ調律中の自己QRSや、下壁の副伝導路のWPW症候群に対するカテーテルアブレーション後にも発生する。
メモリー現象によるT波異常は心室筋の活動電位持続時間の差に起因するもので、数日から1週間程度経過すると再分極相が適合してT波は正常化する(図2B)。
 

心電図2

【まとめ】
若年男性に合併した右脚ブロック型上方軸偏位のWide QRS tachycardiaはベラパミル感受性左室特発性心室頻拍を疑う。 血行動態は保たれるため、急変することはない。
数時間以上続いた場合は停止後に下壁誘導でT波の陰転化が認められるが、心筋傷害(心筋炎やたこつぼ心筋症)など示すものではなく、時間と共に正常化するため、外来で観察可能である。
ただし、時に頻拍の長期持続により頻拍誘発性心筋症を併発することがあり、その際には入院での管理が望ましい。

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