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心電図データベース

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症例80 会社の健診で心電図異常を指摘され来院

男性/50歳

問題

一ヶ月前より労作時の呼吸困難を訴えている。15歳の頃から肥満があり、高血圧を指摘されたことがある。アルコールは飲まない。
タバコは60〜100本/日の喫煙歴があるが、17年前より禁煙。身長170cm、体重68kg、血圧102/76mmHg、脈拍84/分。内服薬はない。
来院時にとられた心電図(1)と6年前に胆嚢炎で入院した時の心電図(2)を示します。
この心電図の診断は? どのような病態を考えますか?

(出題者)公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 会長
社会医療法人仙養会北摂総合病院 理事長 木野昌也

 

心電図(1)来院時

2014年 来院時の心電図

 

心電図(2)6年前

2008年 入院時の心電図

解答と解説

心アミロイドーシス(AL型)
心電図(1):四肢low voltage、陳旧性前壁中隔梗塞疑い、心室内伝導遅延、左軸偏位、非特異的STT異常
心電図(2):洞頻脈、その他に異常なし
 
解説:
 心電図(1)は、正常洞調律(心拍数75/分)、P波に異常なく、PQ間隔は0.20secである。QRS波は四肢誘導にてlow voltageである。
胸部誘導では、V1〜4でr波の増高が乏しく、陳旧性前壁中隔梗塞の存在が疑われる。QRS波は0.12秒と幅広い。Ⅰ誘導で幅広いS波、aVRで幅広いr波を認め、
完全右脚ブロックのようにも見えるが、V1誘導はrS型で遅延したr‘はみられず、胸部誘導ではむしろ左脚ブロックのようにもみえる。これは心室内伝導遅延と呼ばれるもので、心室筋が瀰漫性に障害されている所見である。QRS電気軸は-107度と極端な左軸偏位を示している。非特異的STT異常がみられる。
aVR、aVL、aVF誘導では第3心拍、最下段に示したリズム記録では、第6心拍においてQRS波形が変化している。先行するP波の形がわずかに変化しており、
PQ間隔が短縮していることから、心房性期外収縮と考えられる。このわずかな心拍の変化でも、心室内伝導が影響されQRS波が変化するような状況がある。
ここで5年前にとられた心電図(2)をみると、洞頻脈であるが、それ以外に特に異常はみられない。たった5年の間に何がおこったのであろうか。
 
両者の比較で、5年の間に、①QRS voltageが全体に低下した、②胸部誘導でr波が明らかに減少した(陳旧性前壁中隔梗塞様所見)、③心室内伝導遅延がおこっている、④非特異的STT異常が認められる。 病歴から過去に心筋梗塞を起こした様子はない。受診時の血圧は102/76mmHgと低下している。急激に進行する左心不全と左室電位の低下、心室内での瀰漫性の伝導障害を総合すると、過去5年間に心臓全体に変性病変が起こり心機能が低下したことが考えられる。
 
 これらの所見は心アミロイドーシスの特徴である。アミロイドーシスとは、異常蛋白(アミロイド)が全身の臓器、特に心臓、肺、肝臓、胃、腸、腎臓などの臓器に沈着して、いろいろな臓器の機能が低下して発病する疾患である。心アミロイドーシスでは、アミロイドが心室筋の間に沈着し、心室の拡張障害、さらには収縮機能の障害をきたし、最後には重症の心不全と不整脈により死亡する疾患である。心エコー検査では、心室壁全体が肥厚しており、収縮機能は保たれているものの、高度の拡張障害を認めた(図3)。心臓カテーテル検査では、冠動脈に異常なく、右室心筋生検にて心筋自体に空砲変性と軽度の肥厚を認め、間質にアミロイド蛋白の沈着を認めた。

 

図3-心エコー図

心エコー図

メイヨークリニックから報告された127例の心アミロイドーシスについての検討では、最も頻回に見られた心電図所見は、QRS波のlow voltageと陳旧性心筋梗塞様所見であると報告されている。この症例は当院受診後、半年後に重症心不全と不整脈にて突然死した。
 
参考文献: Murtagh B, Hammill SC, Gertz, MA, Kyle RA, Hajik J, Gragan M: Electrocardiographic findings in primary systemic amyloidosis and biopsy-proven cardiac involvement. Am J Cardiol 2005;95:535-537

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