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症例62 安静時の胸痛

女性/75歳

問題

75歳の女性、独身。結婚歴(-)。
初診は1982年8月15日であるが、安静時に時々胸痛を起こすという主訴で当クリニックを訪れた。
身長:160㎝、体重:55Kg、栄養状態は良好。
視診により頸静脈の怒張も見られず、胸部触診でも異常は見られなかった。
聴診所見:正常であり、聴診部位に心雑音は聴かれなかった。
血液化学検査の結果、軽度肝機能障害が見られたが、ウルソサンの内服により正常化した。
その他の異常は全く見られず、2010年3月3日の心電図も全く正常であった。
その後、臨床経過は順調であったが、2012年春に向かいに引っ越ししてきた住人が彼女の飼っている猫に対して異常に口煩く罵り、約半年に亘ってストレスの絶えることが無かった。
2012年10月15日の早朝、向かいの住人による大声の非難を耳にした途端に、心臓の鼓動が速くなり、頭もボーっとなり、 そのままベッドに倒れ込んでしまった。頻脈は1日中続いた。
そして翌朝、心臓の拍動も正常になり、体も軽くなったので当クリニックを受診した。
直ちに心電図を撮ったが、その時に心電図を茲に提示する。

(出題者)元髙階国際クリニック院長
公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 理事長 髙階經和

 

心電図(2012年10月16日)

75歳 女性 心電図

解答と解説

解説:
 2010年3月3日の心電図(A)、2012年10月16日の心電図(B)、1週間後の2012年10月23日の心電図(C)を提示する。(A)は全く正常である。しかし、今回の頻脈発作が起こった翌日の(B)は巨大な陰性U波を示している。受診直後にフランドール錠を1日2回内服させたところ、1週間後の心電図(C)は全く正常に戻った。
 しかし、患者はまだ何となく全身はだるく力が入らないと訴えていた。胸部レ線(単純撮影)を撮り、2年前の所見と比較したが、10月23日の所見では僅かに心胸郭比が増大しており、また下肺野の血管陰影が増強していることが認められ、肺うっ血があることが認められた。
 
心エコー図検査を行ったところ、明らかに心尖部の収縮が障害されている所見が見られた。
血液化学検査の結果、心筋トロポニン値:0.036ng/ml(正常値:0.014)、NT-proBNP:2119pg/ml(正常値:125以下)と高値を示した。
心電図所見で、第III誘導、aVR, aVF,とV1以外の全ての誘導で巨大陰性T波と示しているので「たこ壺型心筋症」と診断された。治療としてテノーミン(50)1T、 ミカルディス(20)1Tを開始した。
 
一般に陰性巨大T波(深さ11~13mmのもので、Giant negative T wave)を示す疾患には下記のものが挙げられる。
心内膜下梗塞(非Q波心筋梗塞)
肥大型心筋症 ・・・ 心尖部肥大
たこ壷型心筋症 (正常時は無症状であり、心電図も正常)
脳血管障害 ・・・ 頭蓋内出血・くも膜下出血
長時間持続性頻脈(特に高齢者における長時間に亘る頻拍発作)
 
その他、陰性T波を示すものには、臨床的に多数の原因が挙げられる。
 その後2週間ごとに見たNT-proBNP値は、11月6日:3,858pg/mlと上昇し、11月13日:3,360pg/ml、
11月21日:2,170pg/dl、そして12月4日には 1,363pg/mlまで下降し、本人も自覚症状が殆どなくなった。

 

心電図(A)2010年3月3日

図A 2010年3月3日の心電図

心電図(B)2012年10月16日

図B 2012年10月16日の心電図

心電図(C)2012年10月23日

図C 2012年10月23日の心電図

XP(2010)

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UGG(2012)

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