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心電図データベース

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症例52 全身倦怠感と左側の大量胸水貯留

女性/69歳

問題

全身倦怠感と左側の大量胸水貯留を主訴に紹介来院。鼻腔より2L/分の酸素吸入にてSpO2は98%に保たれ、安定した状態にあった。
第7病日、午後3時半、突然の胸部苦痛を訴え、その際に記録されたのがこの心電図である。
全身の冷汗と呼吸困難感がある。SpO2は90%に低下。BP149/100mmHg、脈拍150/分。入院時の心電図を下段に示す。

(出題者)公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 会長
社会医療法人仙養会北摂総合病院 理事長 木野昌也

 

第7病日の心電図

第7病日の心電図

入院時の心電図

入院時の心電図

解答と解説

解答:
たこつぼ心筋症
 
解説:
入院時の心電図は全体にlow voltageである。これは左胸腔全体に貯留した胸水の影響である(図1)。
軽度の非特異的なSTT変化を認める。この入院時の心電図と比較すると急性の病変は明らかである。  

図1

X線画像

 洞頻脈、V1-5でST上昇を認め、V1-3でQS patternを示している。左前下行枝における急性冠症候群、特に急性前壁中隔心筋梗塞を示唆する心電図である。至急に測定した心筋トロポニンTは10分で(+)、白血球数は600/mm3と増加していた。
緊急冠動脈造影検査を施行したが、左右の冠動脈に狭窄病変はなく(図2、図3)、左室造影検査にて前壁から心尖部にかけて壁運動はほとんど消失、心基部のみが収縮しており(図4)、「たこつぼ心筋症」と診断された。
たこつぼ心筋症は、多くの場合、強い精神的、あるいは身体的なストレスで誘発される。閉経後の女性に多いと言われている。この患者はぶどう膜炎による全盲であり、入院によるストレスが引き金になったものと考えらえる。
 
 ストレスに伴うカテコラミンの過剰分泌、冠攣縮、心筋内の細小血管病変などが原因とされているが、詳細は不明である。この症例のように、心筋トロポニンの上昇をみることがあるが、心筋逸脱酵素の異常は、症状や左室壁運動の劇的な病変と比較して、不釣り合いに程度は軽い。心不全に対する一般的な治療法にて改善し、通常1~4週間程度で回復、心電図や左室の壁運動も正常化すると言われている。
結核性胸膜炎の可能性があり、治療を開始するところである。  

図2

冠動脈造影 図2

図3

冠動脈造影 図3

図4

冠動脈造影 図4

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