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症例109 意識消失発作を繰り返し救急搬送された 65歳男性

男性/65歳

問題

症例109
意識消失発作を繰り返し救急搬送された65歳男性

主訴:失神
現病歴:糖尿病とてんかんにて近医通院中であった。 2016年2月、朝8時頃、安静時に胸痛を訴え、嘔吐した。 その後も気分が優れず、横になっていた。夜は眠れず、睡眠導入薬を大量に内服した。 翌朝、胸痛は消失していたが、8時20分頃、家族と会話中、突然の数秒間の意識消失を認め、その後、同様の発作を数回繰り返した。 家族が救急隊をコールし、同日、朝8時53分に当院に搬送された。搬送時傾眠傾向であり、胸痛の訴えははっきりしない。
身体所見:意識レベル Japan Coma Scale のII-1。体温37.5℃、血圧116-65mmHg、脈拍90bpm、胸部聴診所見 II音分裂拡大、過剰心音なし、病的雑音なし、呼吸音正常。腹部や四肢に異常なし。

【図1 心電図】
来院時の心電図を示す。洞調律で心拍数82bpm。PR時間は260msに延長している。顕著な上方軸偏位、III,aVF,V1-3で異常Q波、完全右脚ブロック、V1-4でST上昇(V3で最大0.36mV)を認める。
診断は何か。失神の原因は何を考えるか。

(出題者)近畿大学病院 心臓血管センター教授 栗田隆志

来院時の心電図

【図2 心電図】
外来にて処置中に失神発作が出現した。その際に記録されたモニター心電図である。

失神時の心電図

解答

症例109
意識消失発作を繰り返し救急搬送された65歳男性

【解説】
診断は急性心筋梗塞(前壁中隔)に合併した発作性完全房室ブロックによる失神である。胸部症状の訴えが明確でなく、当初はてんかんまたは睡眠導入薬大量服用による意識障害が疑われていた。
心電図①は1度房室ブロック、上方軸偏位(左室前枝ブロック)、完全右脚ブロックを認め、おそらく心室の伝導は左脚後枝のみに依存しているが、その伝導も遅延し、3枝ブロックの(3枝とも障害されている)状態であることを示す。V1-4でSTは顕著な上昇を示しており、完全右脚ブロックであるものの、急性心筋梗塞を示す有意な所見と捉えて良い。また、通常の右脚ブロックでは初期にr波が認められるが、本症例ではQRパターンとなっており、これも心筋梗塞による所見である。また、下壁の陳旧性心筋梗塞も認められる。急性心筋梗塞による房室ブロックの発生は右冠動脈の病変に起因することが多いが、時に前壁中隔心筋梗塞にも合併する。後者でヒス-プルキンエ刺激伝導系が広く傷害され、房室結節とは異なり、血管の2重支配がないため、再潅流を行わない限り、その予後は極めて不良である。本症例では緊急冠動脈造影を行い、左前下行枝と右冠動脈の近位部に完全閉塞を認めた。前者が責任血管と判断し、経皮的冠動脈インターベンションを行った。その後、右脚ブロックは残存したが、完全房室ブロックと上方軸偏位は消失した。
心筋梗塞に伴って発生する脚ブロックの意義はSgarbossaらによって報告されており、急性心筋梗塞の1.6%に脚ブロックが発生し、左前下行枝を責任血管とすることが房室ブロック発生や一時ペーシングの必要度が高いと言われている1)。また、本症例のような完全右脚ブロックと左室前枝ブロックの伝導障害が生命予後不良の所見とされている。
文献
1) Sgarbossa EB, et al. J Am Coll Cardiol 1998;31:105–10

【図1 心電図】
来院時の心電図を示す。洞調律で心拍数82bpm。PR時間は260msに延長している。顕著な上方軸偏位、III,aVF,V1-3で異常Q波、完全右脚ブロック、V1-4でST上昇(V3で最大0.36mV)を認める。
診断は何か。失神の原因は何を考えるか。

来院時の心電図

【図2 心電図】
外来にて処置中に失神発作が出現した。その際に記録されたモニター心電図である。

 

失神時の心電図

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