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症例106 胸痛を訴えてきた男性

男性/67歳

問題

【主訴】

67歳の男性、会社役員。2~3年前から、階段を登ると息切れがして胸全体が酸素不足になった自覚症状が続いている。立ち止まって30秒ほどして呼吸を整えると、息切れも取れ普通にもどる。この症状は平地を歩いている時は起こらない。

【臨床経過】
生来健康であったが、若い事から1日100本のタバコを吸っていた。10年前、医師に注意され完全に禁煙した。その後、ウエイト・リフティングで、筋力をつけようと週2回、ジムに通っていた。しかし、本人が年齢以上のウェイトを持ち上げる様になってから、急に上記の症状が出てきたため、大阪にある循環器専門病院を受診した。直ちに冠動脈造影が行われた結果、左冠動脈回旋枝に狭窄があるため、PCI及びステントを挿入されて退院した。
しかし、ステントを挿入されたが上記の症状は変わらず持続し、また副作用で皮膚に湿疹が出たため、種々内服薬を替えてもらったが軽快せず、友人の勧めで当クリニックを受診した。

 

(出題者)元髙階国際クリニック院長
公益社団法人臨床心臓病学教育研究会 理事長 髙階經和

心電図①

心電図

心電図②

心電図

心電図③

心電図

心電図④

心電図

解答と解説

【身体所見】
身長180cm,体重:78Kg、外観は筋肉質の体格で診察時には呼吸困難は見られなかった。頸静脈、胸部における視診では異常も見られず、触診ではスリルも触れなかった。聴診したところ心尖部の収縮期クリック音に続き、III/VI度の逆流性雑音を聴取した。患者に聞いたところ、前出の病院では1度も聴診してもらったことがなかったという。聴診所見から明らかに患者は「僧帽弁逸脱」を起こしていた。
心電図では軽度左室側壁心筋虚血が見られるが、左室肥大は見られる以外に特徴的な所見は見られない。これらの心電図所見は患者が冠動脈ステントを挿入された事は別に、運動負荷による一過性左室不全が起こっていることは明らかである。更に心エコー検査で僧房弁逸脱が収縮早期から起こっていることを確認した。私は患者には症状が持続している限り、ジムでの過激なトレーニングは反って体力を鍛えるのではなく逆効果であることを忠告した。
 
【解説】
中年になってからのウエイト・リフティングは急激な左室負荷がかかるため、「急激な運動負荷による僧帽弁腱索断裂」を起こしたのだと考えられる。将来、外科的手術が必要になる可能性が大であることを本人にも伝えた。
問題は、あらゆる新患患者に対して臨床の基本である医療面接と身体診察、特に聴診を行うことにより、最初の段階で診断が付いたと考えられるからである。

 

 

心電図①

心電図①

心電図②

心電図②

心電図③

心電図③

心電図④

心電図④

僧帽弁部位における心音図(MVP)

僧帽弁部位における心音図(MVP)

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