心電図 今月の一枚

ECG of the month

タイトル:背景線

2018年2月

症例118 新しい左室肥大の診断基準について 28歳女性

 

解答と解説

 

健康診断で正常と診断されてきた28歳の成人女性である。恐らく、誰が読んでも正常範囲であると診断するであろう。

2017年にPeguero らが、新しい左室肥大の診断基準を提唱した。それによれば、左室心筋の脱分極ベクトル(電気軸)は水平に近いことが多い。この点に注目した彼らは、胸部誘導において最も深いS波を示す誘導(この症例ではV3) + V4のS波の足したものが、女性では23mm以上、男性では28mm以上あれば、左室肥大と診断できるという。

そこで筆者は、この条件を今まで「正常心電図」と診断されてきた症例に適用してみると、本症例では胸部誘導V3に注目すると17mmと最も深い。またV4のS波は10mmである。成人女性の23mm 以上あることが分かった。しかし、従来からSokolow & Lyon の診断基準や、Cornel Indexが広く使われている。 

左室肥大を考えてみると胸部誘導(V1 ・V5)のR波だけでは正確に診断していないというのが、彼らの新しい診断基準である。 この研究の基準となった患者は高血圧があり、心エコーでLV mass(左室筋肉量) が増加している人たちである。そして調査された人たちの年齢も最も若い群では43±7歳、多くの高血圧患者は66±17歳であり、高血圧等によるLVmassの増加を十分に期待できる人たちである。その意味で、中年以上の人に対して検討する価値はあると考えられる。この研究で問題と考えられるのは、対象となった人たちがかなり狭い範囲に限定されている事、しかも30歳以下の若い人たちに対する調査は行われていないとである。従って、この基準を健康な30歳以下の若い人に適応することはできない。

彼等の新基準を、この症例に当てはめてみると、 V3(最も深い)S波(17mm)+V4のS波(10mm)=27mmmとなった。基礎疾患に高血圧を考慮せず、単純に読んでしまうと、どうやら左室肥大であると診断されてしまうことになる。1903年にEinthovenが心電図を臨床診断に応用されてから、実に105年が経った今、新しい考えを提唱したPegueroたちの考えが、世界の心電図学者によって受け入れられるかどうか、非常に興味のあるところだ。

従って、本症例の様な若い30歳以下の健康者には適応されないと考えた方が無難である。

 

図1

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図2

 

 

 

 

高階經和(ジェックス理事長 高階国際クリニック院長)

 

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