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髙階理事長エッセイ「One thing at a time」【最終回(第17回)】

 

 

【最終回(第17回)】

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

 

《り》 自主自戒のことば~その(31)
 「 勉強と学習について( about study and learning)」 
 

 
 すでにお気付きのように、三十一文字「青丹よし奈良の都は咲く花の匂うがごとく今盛りなり」の頭文字を使って、わたしは現在・過去の時事寸評とも呼べる話を短い文章に纏めてきました。それはわたしが医学部に進むまえに読んだ「過去から未来へ続く人間の歴史は振り子のようなものだ」と文章が頭に浮かんだからです。人間は古の昔から現実を直視し、歩み続けてきたことで、自然崇拝、宗教、哲学、文学、芸術、音楽そして科学が自然発生的に生まれてきたのだと思います。

 しかし人類は同じ場所に留まらず進化を続けています。やがて各地で人間同士のコミュニケーションを図るため、言葉が生まれ、文字が作られ、そして文化が芽生えてきたのです。

 やがて物事を理論的に考える人と、情緒的に捉える人は文学的な考え方をするようになりました。わたしは全ての本質を見極める考え方が哲学だと思っています。イギリスの心理学者ハーディは「勉強と学習」(Study and Learning)という著書のなかで「学習には三段階ある。第一段階は表層学習、第二段階は深層学習、第三段階は認知学習である」と述べています。

 第一段階は試験合格のため、物事を理解せずに記憶する過程

 第二段階は物事の本質を理解して、記憶する過程

 第三段階は物事を暗記し、それを理解したうえで記憶する過程

 ハーディは勉強とは人から教えられたことを覚える「①受動的学習法」であり、学習とは積極的に自分で理解しようと努力する「②能動的学習法」であると定義しています。

 現在の学校教育プログラムも大きく変わりました。小学校から始まるデジタル教育は確かに素晴らしいことだと思いますが、わたしは1970 年、当時にはなかった画期的な試みとしてプログラム学習法による「心臓病へのアプローチ」(医学書院)を書きました。半世紀を経たいま考えて見ると、能動的学習法の原型だったと思います。教育には決して終わりがありません。

 先日、偶然にもある医療者向けの雑誌に「ボディ・オン・チップという人体の各組織の幹細胞が作られるようになり、これを使って抗がん薬の副作用を再現できる装置を開発した京都大学の亀井健一郎准教授のことが紹介されていました。詳細は略しますが、亀井先生は東工大出身で、手塚治虫の代表作「ブラック・ジャック」という天才外科医の発想にインスパイアされたそうです。

 時代は進み、皆様も未来に向かって歩んで行かれると思いますが、自主自戒の意味は、他人から教えられた事を理解せずに学ぶのではなく十分に理解したうえで身に付け、未来へと新しい道を切り開き進んで行くという事です。全ての職業は社会のためにあるという認識を持って着実に歩んで頂きたいと思い、わたしの「三十一文字」に込められたエッセイを終わります。

《了》

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