症例55 失神 男性 84歳 2012.6

7. 房室ブロック > 完全房室ブロック > 完全左脚ブロックと1度房室ブロック

症例55

失神

男性 84歳 2012年6月掲載分

解答・解説

症例55の解答と解説

[臨床経過]
 20年前から糖尿病と高血圧にて加療中であった。10年前に心電図上の左室肥大を指摘されていたが症状がないため精査を受けなかった。2012年2月から1ヶ月間に4回の失神発作があり、当院に紹介となった。失神は姿勢、労作などに関係なく生じ、動悸、冷汗、胸痛などの前駆症状はない。意識消失は数分間続き、失神時の外傷はなく、覚醒後の麻痺症状もない。家族歴で兄が70歳台で心臓突然死をしており、娘も心肥大を指摘されている。
来院時の血圧は130/60mmHg、心拍数は84回/分で整。聴診にてLevine 3/6の頚部へ放散する収縮期駆出性雑音が第二肋間胸骨右縁で聴取された。問題の心電図(来院時)では1度の房室ブロックと完全左脚ブロックを認めた(図1)。心エコーにて弁口面積0.82㎠の重度の大動脈弁狭窄と非対称性心室中隔肥大を認めた。
入院後に施行した心電図で、RR間隔の延長が記録された(図2)。この時点で、房室ブロックによる失神を強く疑い、緊急的一時ペーシングを準備していた直後、モニター心電図にて25秒におよぶ心停止が記録された(図3)。

図2 入院後の心電図(拡大版はこちらをクリック)

心電図2 入院後

図3 モニター心電図(拡大版はこちらをクリック)

心電図3 モニター心電図
[解説]
 本症例において失神に関連する病態として房室ブロック、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症による左室流出路狭窄など複数の原因が考えられた。初診時の心電図(図1)では1度の房室ブロックと完全左脚ブロックが合併しており3つの脚枝全てに伝導障害が及んでいる所見と捉えて良い。PR延長と右脚ブロックに加えて左脚前枝ないし後枝ブロックを伴う3枝ブロックや左脚ブロックと右脚ブロックを繰り返す交代性ブロックも同様に完全房室ブロックへ発展するリスクがある。失神症例でこのような心電図所見を伴う場合、入院精査加療を勧める必要がある。
 
入院後に観察された心電図(図2)では、MobitzⅡ型の房室ブロックを認めており、この時点で失神の原因は発作性の房室ブロックによる高度徐脈である可能性が高いと判断された。2度房室ブロックにおけるWenckebach型とMobitz II型との鑑別のコツは房室ブロックが生じる前後のPR時間に注目することである。図2をみるとブロック前後のPRに全く変動がなく、典型的なMobitz II型を呈している。Mobitz II型ブロックは器質的病変に起因し、伝導途絶部位はHisあるいはそれより遠位に存在することが多い。従って図3のように発作性完全房室ブロックに発展し、一旦伝導が完全に途絶すると補充調律が出現しにくく、極めて長い心静止が招来される。
 
この症例の場合も、図3で示すように1拍目のQRSがモニター記録上段の左端に記録されており、そのあとは体動によるアーチファクトが記録されるがQRSは記録されずP波のみが記録されている。QRSはモニター記録下段の右端まで記録されておらず、25秒にわたる心静止となった。このような状態は突然死のリスクが極めて高く、緊急に一時的人工ペーシングを行う必要がある。全く補充調律が出現しないときや心静止を繰り返している場合は電気ショック機器に装備されているパドル電極を用いた経皮的ペーシングを行うが、不快感が強く、安定性に欠ける。従って、可及的速やかに頚静脈的な心室ペーシングを行い、その後、恒久型ペースメーカーの植込術へ移行する。本症例では一時ペーシングの後、DDDペースメーカー植え込みが行われ、心臓カテーテル検査を経て大動脈弁置換術の予定となった。

宮崎俊一(ジェックス理事・近畿大学医学部循環器内科学主任教授)
栗田隆志(近畿大学医学部附属病院心臓血管センター教授)
安岡良文(近畿大学医学部循環器内科助教)

 

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20年前から糖尿病と高血圧にて加療中であった。
10年前に心電図上の左室肥大を指摘されていたが症状がないため精査を受けなかった。
2012年2月から1ヶ月間に4回の失神発作があり、当院に紹介となった。
失神は姿勢、労作などに関係なく生じ、動悸、冷汗、胸痛などの前駆症状はない。
意識消失は数分間続き、失神時の外傷はなく、覚醒後の麻痺症状もない。

出題:
宮崎俊一(ジェックス理事・近畿大学医学部循環器内科学主任教授)
栗田隆志(近畿大学医学部附属病院心臓血管センター教授)
安岡良文(近畿大学医学部循環器内科助教)

 

図1 来院時心電図(拡大版はこちらをクリック)

図1 84歳 男性 心電図