一般の方に

あなたの症状は

胸 痛
胸痛の原因1~「胸が痛い」と感じたときには

次の点に注意

  1. いつ始まったのか。
  2. どんなときに起こったのか。
  3. しばしば起こるのか。
  4. 痛みの続く時間はどれくらいか。
主治医が診察する際のポイント
  1. 痛みの場所は胸のどこなのか。
  2. 痛みはどこかに放散するか。
    例:胸の上部、肩、胸全体をよぎる、頸部や顎、上腕の内側に放散する、ときには右前腕に放散したり、両手の前腕が重い、胸の前から後ろにかけて突き抜けるような痛み、などの症状。
  3. 痛みが1カ所でなく、あちこちにないか。
  4. 痛みは大きく息を吸い込んだときに起こるか。
  5. 上体を前に曲げたり、左右にねじると、痛みは強くなるか。
  6. 痛みの場所を指で押さえるとよけいに痛くなるか。
  7. 痛みの時間は5秒以内で治まるのか。又は30分以上続くか。
  8. 痛みはじっとしゃがみ込むと楽になるか。
  9. 上向きに寝ると楽になるか。
  10. どうすれば痛みがとれるのか。薬は絶えず飲んでいるのか。
こういった症状は、その胸痛の原因が、心臓性のもの、特に冠動脈疾患によって起こったものであるかどうかの鑑別に極めて大切なのです。


胸痛の原因2

  • 冠動脈疾患
    動脈硬化などの変化によって、冠(状)動脈(心筋に血液と栄養を送っている血管)の内腔が狭くなってくるため、心筋に充分な酸素が供給されなくなり、胸痛が起こってくる病気。
    1. 狭心症 -- 一時的に冠動脈がつまって胸痛が起こるもの。
    2. 心筋梗塞 -- 永久的に冠動脈がつまってしまい、心筋が壊死を起こしてしまうもの。
  • 非冠動脈疾患  
    1. 弁膜症 -- 慢性の心臓弁膜症では、左心室から大動脈を通って全身に拍出される血液量も少なく、そのため冠動脈を通って心筋に供給される血液量も少なくなり胸痛を起こすことがあります。
    2. 貧血症 -- 体内を流れる血液の中にある血色素(ヘモグロビン)の量が始めから少ないために胸痛が起こったり、めまいが起こったりもします。
    3. 収縮性心膜炎 -- 心臓の外側には薄い心膜というものがあり、正常時には伸展性のあるもので心臓を保護していますが、慢性の心膜に対する炎症があると、ついに心膜が肥厚して、外側から心臓を締めつけるような形となり、そのため心臓は拡張しにくくなり、運動時に胸痛や呼吸困難が起こっています。
    4. 肺高血圧 -- この病気は、肺動脈が硬化するため肺動脈圧が上昇し、右心室の肥大が起こってきます。さらに左心室の拡張も悪くなる結果、収縮性心膜炎の時と同様、心拍出量が一定範囲に固定される結果、運動時や労作時に呼吸困難や胸痛が起こってきます。
    5. 肺塞栓 -- 重症の場合は胸痛とともにショック状態を起こすことがあります。軽症あるいは中等症では急に胸痛が起こり、呼吸困難を伴うため、急性うっ血性心不全と診断されることがあります。時には痰に血液が混じることもあります。
    6. 食道炎 -- 食事の最中や、上向きに寝たときに急に胸の中が焼けつくようになり、痛みを覚えることがあります。だいたいの場合は、胃酸が逆流するために起こってくる現象ですが、胃酸過多が原因です。習慣的に何回でもこの発作を繰り返す人があります。
    7. 胸壁の病巣 -- 炎症や外傷、腫瘍などのために胸痛が起こってくるわけですが、局所的な傷、潰瘍、皮膚の牽引、血腫(出血によってできた血の塊)、腫瘤や圧痛があります。
    8. 帯状疱疹 -- 必ず胸壁の右側あるいは左側に限局して帯状に泡のような発疹がでてくるのですが、この発疹がでる前には皮膚の表面がぴりぴりするほど痛くなることがあります。痛みの程度はかなり強く、時には痛みのため呼吸障害をおこすことがあります。
    9. 肋軟骨痛 -- これは中年の婦人によくみられるものです。肋骨と胸骨の間に肋軟骨という軟骨がありますが、この接合部分が急に痛くなったり、また段々と痛みが増してくることがあります。深呼吸をしたり、上体を曲げたりすると痛みが強くなります。この痛みは自分でその部分を押さえると痛みが増してきます。局所的にその部分が腫れてくる肋軟骨痛を「ティエッツ症候群」と呼んでいますが、原因ははっきりせず、おそらく年齢的な変化に伴い、肋軟骨に石灰沈着が起こったり、肋骨との接合部が敏感になるためだと考えられています。経過はまちまちで2~3週間から2~3ヶ月痛みが続く場合があります。予後はよいもので治療しなくても治ってしまいますが、あまり痛みが続く場合にはアスピリンなどの鎮痛剤を服用すればよいでしょう。
    10. 呼吸器性疼痛 -- この痛みは、心臓性のものではないかと一番心配されるもので、前胸部で特に左胸部や右胸部にも起こってくる30秒から3分くらい続く痛みです。特に深呼吸をすると痛みが強くなり、浅い呼吸をすると楽になるのが特徴です。原因はよくわかりませんが、肋間にある筋肉痛又は「肋軟骨痛」によって起こってくる場合が多いようです。したがって予後は全くよく、心配はいりません。
    11. 肋間筋肉痛 -- 激しい運動や、慣れない姿勢で荷物を持ったりした後で起こってくる筋肉の痛みです。始めにもお話ししたように、上体を曲げたりすると痛みが急に強くなりますし、指で押さえても痛みを感じます。この痛みも自然に治りますが、消炎剤やアスピリン剤が効くでしょう。
    12. 肋間神経痛 -- この病名は一般の人が一番よく聞かれるものではないでしょうか。肋間の神経の走行に沿って、鋭い痛みを感じるもので、深呼吸をしたり、上体を曲げると痛みが強くなる点は、肋間筋肉痛と似ています。肋間神経の走行に沿って圧痛があれば、皆さんでも容易に診断できます。一番痛い点は背骨のすぐそばや腋窩(脇の下)や、胸骨のそばなどです。肋間神経痛の原因にはいろいろのものがありますから、主治医に相談し、必要であれば神経外科で診察してもらうことが大切です。
胸痛の原因は、まだまだほかにも挙げられますが、皆さんが「胸が痛い」とおっしゃる場合の90%は、非冠動脈疾患性のものであり、急に心筋梗塞を起こしたりするものではありません。ですから、「胸が痛くなった」という経験をなさった方は、自分の症状の起こり方を詳細に手帳にでも書いておかれることをおすすめします。


うつむいたときに胸が痛くなる。

この症状は、心臓性ではなく、ほとんどの場合「胸壁性」のものです。肋間筋肉痛の場合や、肋間神経痛、あるいは肋軟骨痛、あるいは呼吸器性疼痛によることが多く、体位を変えた時や、上体を曲げたときなどに胸痛が強くなりますが、あまり心配はいりません。鎮痛剤を服用するだけで十分効果があるようです。


歩行していると胸痛が出るが、しばらく我慢すると尿意をもよおすようになる。さらにその後、吐き気が起こる。

運動によって胸痛が起こってくるのは、労作性狭心症といって、運動時に冠動脈の狭くなったところへ血液が流れ込まなくなり、心筋への酸素の供給が減少するため、心筋虚血が起こり、胸痛が起こってくるわけです。そして心筋の収縮力が急激に落ち、全身への血液循環も悪くなってくるため、このような症状が出てくるのです。しかしこの場合、歩行を続けるということは、胸痛というストレスが副腎髄質を刺激し、アドレナリンやノルアドレナリンというホルモンを分泌させます。その結果、心臓の拍動数は増え、心収縮力が増し、血圧も正常あるいはそれ以上にあがることになります。腎臓への血液の流れも増えるため、尿の生産も盛んになります。ところで腹腔内の臓器の働きは全て副交感神経(つまり迷走神経)によってコントロールされているのですから、尿が膀胱にたまりいっぱいになったとき、膀胱括約筋を収縮させるのは、副交感神経の役割なのです。そのため尿意を催すことにもなりますし、同時にほかの腹腔内臓器を刺激するため、吐き気や、時には嘔吐、そして尿意ばかりか便意を催したり、急に下痢を起こしたりすることもあるのです。
これらの症状も労作性狭心症に付随して起こった関連症状ですから、くれぐれも注意しなければなりません


胸痛が起こりそうになると横になる。そうすると胸痛が起こらないですむ。

この胸痛の原因はどうやら心臓性ではないようです。前にも説明しましたように、心臓性の胸痛は、体位を変えても治まったりはしないからです。おそらく、胸部の表面の痛みや肋間筋肉痛、肋軟骨痛、又は呼吸器性疼痛によるものだと思われます。確かに「体を横にする」ということは、体を楽にして休むということであり、人間ばかりでなく、全ての哺乳動物は体を水平に、あるいは横にして疲労を取ったり、眠ったりします。
これは、筋肉を弛緩させるばかりでなく、心臓と頭部、四肢の位置を同一平面上に起き、循環状態を最小限のエネルギーでスムーズに保とうとする自然の順応に他ならないからでしょう。ですから、もし仮にこの人の胸痛の原因が狭心症であったとすればどうなるかについて考えてみましょう。
狭心症による胸痛は、冠動脈の狭窄が原因で起こってくるものです。いま狭心症の発作を起こした人が体を横にし、水平にした場合には、下肢の方にあった血液が心臓の方に余分に還ってくるため、心臓はこの余分の血液を再び全身に送り出さなければならなくなり、心筋は収縮力を増強しなければならなくなり、余分の血液を必要とします。しかし狭心症を起こした状態では冠動脈から血液が充分に心筋に入ってこないため、胸痛はますますひどくなるというわけです。
狭心症の発作を起こした人は、その場にしゃがみ込んで血液の循環量を少なくすることが一番理屈にかなった治療法だと言えます。
この方は自分で胸痛の治療法を知っておられるわけですが、必ず「どういった状態で胸痛が強くなり、どういった状態で胸痛が軽くなるのか」ということを主治医に詳しく話しておかれる必要があります。
私たち医師は、患者さんから教えていただいている細かな症状の変化をもとに診察をすすめているのですから、どんなささいなことでもお話しいただくことが病気の解決の早道だと言えます。


興奮すると胸が痛くなる。

この症状は心臓性のものですが、必ずしも冠動脈疾患によったものとは限りません。昔から心の悩みを表現するのに、「胸の痛みに耐えかねて」などといった表現が使われていますが、確かに精神的に緊張したり興奮したりすると、それによって交感神経が刺激され、冠動脈が収縮するのです。すると収縮した血管の先には血液が流れにくくなり、心筋虚血が起こってくるというわけです。この状態は全く健康な人でも起こることですが、多くは一時的な現象として経過してしまうのです。ところが、冠動脈硬化のある人の場合は、興奮や精神緊張によって胸痛が起こるということは望ましいことではありません。それが誘因となって狭心症の発作や心筋梗塞を起こしてしまうからです。
   人の性格にはA、Bの2つのタイプがあり、Aタイプは非常に積極的で、感情の表現が激しく、几帳面で、しかも時間や約束をきちんと守るといったまじめな性格の人です。一方、Bタイプは、Aタイプの正反対の性格の持ち主であり、この2つの極端なタイプの性格の持ち主が冠動脈疾患にかかりやすいといわれています。完全主義というのも時には具合の悪いことがあるようです。


夜中の1時から3時頃胸痛のために目が覚める。(安静時狭心症)

 この症状もどうやら心臓性のものといえます。しかし、今までの胸痛の起こり方とは少し異なっているようです。狭心症の発作というものは、運動をしたり、作業をしたりしたときに起こってくるものであるというところから、「労作性狭心症」と呼ばれていますが、この場合は、体を安静に保っている睡眠中に発作が起こって目が覚めています。そういったところから「安静時狭心症」と呼ばれており、発作の起こる時間は夜中や明け方、あるいは早朝時にのみ起こってくるものです。
 労作性狭心症は、冠動脈の動脈硬化によって起こったものであると考えられていましたが、この安静時狭心症は、冠動脈が全く正常であっても起こりうるものと考えられてます。 正確なメカニズムはまだ解明されていないようですが、どうやら冠動脈のけいれんが起こって、一時的な心筋虚血 が起こるためだと考えられています。
 人間の体には24時間中に一定の「生体リズム」があり、朝、目が覚めて活動を開始する動作から、1日の仕事を終えて就寝する時間帯が、大体個人によって決まっているようです。
その生体リズムの中で、血管壁の平滑筋という筋肉の中にカルシウム・イオンが多量に取り込まれて、血管壁がふ くれて血管内腔が狭くなる時期があります。この時期にその血管がけいれんを起こしやすくなり、ある人では就寝 後、数時間たった真夜中に冠動脈がけいれんを起こす結果、安静時狭心症つまり睡眠時狭心症を起こしてくるわけ です。
 現在では、狭心症に対する特効薬はニトログリセリンにまさるものはありませんが、しかしこの安静時狭心症に対する治療薬としてカルシウム拮抗剤(アダラート、ヘルベッサー、ワソラン)があり、非常に有効のようです。もしこのような症状のある人は是非主治医に相談なさってください。


タバコを多くすった翌日は、胸痛が起こる。

 この症状も良く聞かれるものです。会議が長時間にわたった り、人との応対でついついタバコの本数が増え、冠動脈疾患にかかりやすくなる危険因子の一つに挙げられていま す。それはタバコの中にあるニコチンが刺激となって血管を収縮させる、つまり交感神経の緊張に似た状態を作り 出すからです。その結果、1日に30から40本のタバコをすうということは全身の血管を収縮させ、とくに冠動 脈や肺動脈などは直接、大きな影響を受けることになります。
 その結果、翌日になっても前日のタバコの影響が体の中に残っていることになるのです。どんな病気でもそうなのですが、病気というものは突然起こってくるものではありません。毎日のわずかな生活上の変化や、習慣というものが積もり積もって症状となって現れてくるのです。
タバコは冠動脈疾患を引き起こす危険因子の上位にランクされていることをお忘れなく。
念のため、危険因子を挙げておきましょう。

  1. 高血圧(普段から治療しておきましょう)
  2. 肥満(体重をできるだけ減らすよう努力しましょう)
  3. タバコ(『百害あって一利なし』の諺のとおりです)
  4. 高脂肪食(コレステロールの多いものは避けましょう)
  5. 運動不足(生活習慣病の共通点に挙げられています)
  6. ストレス(できるだけ自分で気分の転換をはかりましょう)
  7. 糖尿病(毎日の食事習慣に気をつけましょう)

生活習慣病は、日頃の生活に十分注意をしていただくことが何よりも大切です。もしこの方のようにタバコをすって胸痛の出る人は、「冠動脈疾患になる」という「赤」の危険信号が点滅しているのですから、直ちにタバコを完全にやめてください。タバコをやめれば必ずこの症状はなくなります。


寒くなってから毎朝、電車から降りて5分ほど歩いたところで胸痛が起こる。

 この症状はどうやら心臓性のもので、とくに冠動脈疾患によるものと考えられます。
冠動脈の動脈硬化(粥状硬化)により、冠動脈の内腔が狭くなっているために、寒さという刺激により冠動脈が収縮すると、心筋へ流れ込む血液量が減少する結果、心筋虚血となり、胸痛が起こってくるのです。このように毎朝、同じような条件下で胸痛の見られる場合には、必ず主治医に相談して、早朝起床時に服用する亜硝酸剤やベータ遮断剤、またはカルシウム拮抗剤を処方してもらうのがよいでしょう。


寒くなってから胸痛の起こる回数が増した。

 冬の寒い朝、誰でもすることでしょうが、ぴりっとした寒さに思わず身震いするといった行為は、皮膚の表面にある毛細管が急に収縮し、体温の放散を防ごうとする自衛手段に他なりません。しかし、これは元気な人の場合の話です。もし冠動脈疾患があり、狭心症の発作を1回でも起こしたことのある人では、寒さが大敵です。
狭心症の発作の回数がだんだんと増えるということは、決して好ましいことではありません。心筋への血液の供給が発作を起こすたびにますます悪くなり、ついに心筋梗塞にもなりかねないからです。このように発作の回数が増してくるタイプの狭心症を「なりかかりの心筋梗塞」と呼んでいます。
この状態を不景気な会社にたとえてみますと、毎月の給料を支払うのがだんだんと困難になり、社員には給料も20%減、あるいは30%減となり、ついには給料の支払いができなくなって倒産に追い込まれた場合に相当します。社長はもちろんのこと、全ての社員が失業してしまうことになります。つまり心臓という会社の全ての機能が止まってしまったのです。
 このように心臓という会社を倒産させてしまう前に、何とかしなければなりません。それには会社の営業面の不振の原因がどこにあるのかを調べる必要があるのです。
 もし、このような症状のある方がいらっしゃったら、必ず専門医の診察をお受けになることを勧めます。そして適切な治療や指示をお受けになることが大切です。


食後に必ず胸が痛くなる。

 食事をとるということは、人間が生きていくために欠かすことのできない事柄ですが、もし食事をした後で必ず胸が痛くなるとすれば、その因果関係はかなりはっきりしています。
食物が胃に入って消化が始まると、消化器系にきている血管は拡張します。つまり消化器は空腹時と比べるとよけいに血液を必要とするのです。
その結果、心臓は余分の血液を送り出さなければなりませんから、心臓の仕事量が増えるのです。健康な人でもお腹いっぱいに食事をとると、何となく胸がどすんと重いといった感じを持たれることでしょう。
 もし冠動脈に粥状変性(粥状のドロドロとしたコレステロールや中性脂肪、ベータ・リポ蛋白などでできた脂肪のかたまりが、血管の内壁などに付着して、健常な血管の性質が徐々に変わっていく状態)が起こっていれば、冠動脈の内腔は狭められており、その結果、心筋は食後1時間から1時間半の間はとくに虚血状態が強く現れてきます。食後すぐに運動したりすることは、とくに心筋の虚血状態を招き、狭心症の発作などが起こりやすくなります。このような人の場合は、できるだけ食後はゆっくりと休息をとることが必要でしょう。


心窩部から胸骨、首に沿って痛みが4、5分続いた。ぬるま湯を飲んだら自然に治まった。こんなことが春と秋によく起こる。

 これは、どうやら食道炎の症状ですね。心窩部(みぞおち)から胸骨の下、そして首に沿って痛みが起こってきたというのは、胃酸過多が原因で、胃酸が食道に逆流したためでしょう。ぬるま湯を飲んで胸痛がとれたというのは、胃酸が再び胃の中におさまり、食道への刺激がとれたからでしょう。それに春と秋によく起こるというのは、季節的な変化によって体調が変わり、胃酸の産生が過剰になるためか、あるいは、食欲が旺盛で食べ過ぎによって起こることもありますので、食生活に注意することが大切でしょう。


食事や体位、時間に関係なく、胸部圧迫感を感じるときがあり、背中に痛みがある場合もある。しかし水を飲むと必ずおさまる。

 具体的で、詳しく胸部圧迫感を訴え、しかも水を飲めば必ず直るという自分自身の「ノウ・ハウ」もあります。
この場合、1日の時間やおそらく労作にも関係なく胸部圧迫感を感じるというのは、心臓性の痛みとは考えられません。しかも、水を飲むと必ず治まるという治療法まであるようです。これは、胃酸過多(恐らく日頃から胃が悪いか、慢性胃炎があり、その結果、胃酸の分泌が過度になっているのでしょう)のため、胃酸が食道の方に逆流する結果、食道炎(食道粘膜のただれ)を起こしているのだと思われます。
ですから、水を飲むと食道の中の胃酸は胃の中にはいり、食道には刺激がなくなる結果、腹部の圧迫感が治まるのだと思われます。普段から香辛料やわさび、カレーなど、またコーヒーやタバコなどはできるだけ控えるようにすることが先決です。


胸と左腕に痛みがあり不快である。

 胸痛と同時に左上腕部に痛みが起こってくるというのは、典型的な狭心症の発作の症状と、私たち医師は考えています。なぜこの痛みが起こってくるのかについて説明しましょう。
 体中の血管は全て心臓を中心として動脈でも静脈でもつながっているのです。もしそうでなければ、大出血が起こります。つまり、心臓から大動脈という太い血管を通して血液が全身に出ていくのですが、これが枝分かれをして、細い動脈になり、体の末梢部分では毛細管という細い血管の網目を作り、やがて再び細い静脈、太い静脈となり、体の上半身からは上大静脈、下半身からは下大静脈となって心臓に還ってくるのです。
このように血管が全てつながっているということは、その血管の壁に沿って走っている血管運動神経というものも同時につながっていることになるのです。
ですから、狭心症の発作が起こったとすれば、冠動脈が大動脈に直結しているため、その痛みはすぐに大動脈から枝分かれしている左腕の上腕動脈のほうに伝わり、何ともいえない不快な痛みとも、しびれ感ともつかない感じとなって自覚されることになるのです。
 この症状は冠動脈疾患によって起こっているものですから、必ず主治医にすぐ相談し、治療を受けて下さい。これは危険信号の「赤」ランプがつきっ放しの状態となった証拠です。


時に吐き気が起こり、嘔吐すると胸痛も消える。

 この症状は、胸部と腹部の間にある横隔膜という膜の刺激症状です。
構造的に見てみますと、横隔膜というのは胸部と腹部を分けているわけですが、働きの上ではこの膜には筋肉もあり、収縮したり、伸展したりすることができる強靱な膜なのです。
私たちが普通に呼吸している場合には、この膜が上下に動いて、肺に空気を吸い込ませたり、吐き出させたりしています。この動きは迷走神経(体の中のあらゆる部分に迷い込んだように入り込んでいる神経というのでこの名が付けられています)の枝である横隔膜神経がつかさどり、この神経は同時に痛みなどの知覚もつかさどっています。ですから、今、仮に横隔膜に刺激が加わると、横隔膜は普通の時よりもよけいに収縮、伸展を繰り返したりして反応するのです。
 皆さん、横隔膜の上に何が乗っかっているのかご存じでしょうか。それは、心臓と肺です。そして横隔膜の下には肝臓や胃があるのです。
もし心臓や肺、あるいは肝臓、胃などに障害が起きると、当然のことですが、横隔膜は刺激されます。その結果、急激な刺激が加わると横隔膜は急に収縮し、腹腔内の圧力が上昇する結果、胃の中のものが食道を通って逆流し、口から体外に出されます。この現象を「嘔吐」と呼んでいるわけです。
 つまり、胸痛が起こると同時に吐き気が起こったと言うことは、心臓の下の方に変化が起こり、横隔膜を刺激した場合と、もう一つ、胃の調子が悪くなり、胃がガスで充満した結果、横隔膜を押し上げることにより起こる場合があります。そのため吐き気(むかつき)が起こり、その後、嘔吐をすることになるのかもしれません。
 何故嘔吐をすると胸痛が収まるのでしょうか?
 胸痛というのは、交感神経の緊張によって起こるものであり、一方、迷走神経というのは副交感神経であり、両者は車のアクセルとブレーキの役割に相当します。そのため、アクセルをいっぱいに踏んで加速された車のスピードが、ブレーキを踏むことによって減速されるように、胸痛は嘔吐によって収まるのだとお考えいただければよいでしょう。
 しかし、この症状は、胃腸や肝臓などの消化器によって起こってくる場合と、心臓の冠動脈の障害によって起こってくる場合とがありますから、必ず主治医に相談される必要があります。


狭心症の発作が起こると冷や汗とあくびが著明となる。

 狭心症の発作が単に胸痛だけの場合、ほとんどの人はじっとうずくまって右手で胸を押さえています。これらは自然の反応であり、誰でもこうすることにより、下半身のほうから心臓に還ってくる静脈血量を減らし、心臓の負担を軽くしようとしているのです。
狭心症の発作の最中の心臓は、心筋の収縮力がグンと落ちてしまい、その結果、全身への血液循環も悪くなってくるため、一時的な低血圧もしくはショック状態の始まりのような症状が現れてくることになります。その症状が、冷や汗とあくびなのです。
 体が非常に疲れたときには「生あくび」が出ることがあります。あのときの状態はやはり血圧も低下し、全身の循環が悪くなったために体の中には炭酸ガスがたくさんたまっているわけです。これを何とか体の外に出してしまおうとしてあくびをし、大きな呼吸とともに炭酸ガスを吐き出します。この動作はやがて治まり、気分が落ち着いてきます。
狭心症の発作の場合も、体の中には自然の防御機構が働き、発作が治まるまで何とか体を一番楽な状態に保とうとしているのです。
これが発汗とあくびだと考えてください。しかし、毎回この症状が出ると言うことは好ましいことではありません。
 現在の心臓循環器系の薬には非常に優秀なものがありますから、是非主治医に相談され、狭心症の予防薬を処方していただくことが先決です。


胸痛が起こる前に、非常に灼けるような感じがする。

 この症状はおそらく冠動脈疾患によるものと考えられますが、多くの場合、胸が痛いという感じではなく、胸の圧迫感や、呼吸ができないといった状態もひっくるめて「胸痛」と呼んでいるようです。しかし、この症状のように灼けつくような感じというのは、虚血の起こる過程を正確に表しているのだと思います。
 この場合も、ぜひ狭心症の予防をしておく必要があります。


胸痛が起こる前には、必ず耳の下からあごが非常にだるくなる。

 これも狭心症の症状の一つなのです。
冠動脈疾患の症状の特徴としてあげられるものの中に、心臓の前の部分が痛くなるものと、左肩や(時には右肩)左上腕(又は右上腕)、また背中に抜けるような痛みや、下顎、歯や耳などに痛みを感じることがあり、これを痛みが体のあちこちに散らばるというので、「放散痛」と呼んでいます。痛みに対する感じ方は、十人十色であり、一定していません。ある人には大変な痛みでも、他の人では大した痛みにならないことがあります。しかし、この症状のように、狭心症特有の痛みの放散の状態が見られる以上、やはり放っておいては行けません。
必ず治療を必要とします。


左胸部にちくちくする感じがした。

 この症状は心臓性ではありません。
ちくちくとした痛みに近い感じなのですから、ある一定時間、胸痛が持続したわけではありません。おそらく胸壁の肋間神経痛、あるいは筋肉痛によるものだと思われます。痛みが左側にあるため、「心臓の痛みではないか」と不安になられたのでしょう。
 持続時間が短く、数秒のものは症状として重大なことが起こっていると考える必要はありません。
もし何回もこの症状が起こるようでしたら、主治医に相談されるのがよいでしょう。


右胸部全体が痛い。

 この症状も心臓性の痛みではないといえます。
しかし、右胸部全体が痛むということは、胸壁か、あるいは呼吸器性の痛みによるものかもしれません。できるだけ早く主治医の診察を受ける必要があるでしょう。
非冠動脈疾患による胸痛の原因にはいろいろなものがあります。 胸痛の原因2をご覧下さい。
もし、胸痛ばかりでなく呼吸が苦しい場合には、胸膜炎の可能性もあるわけで、入院を必要とするかもしれません。


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